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1 ズルをするお姫さま

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 ……ごめんなさい。


 クラス対抗リレーで、だれが一番くやしかったのか、わたしは知っている……。


 周回おくれになって、ビリが決まった、六年一組のアンカーをつとめたのは、早矢だった。

 ほかのチームがぜんぶ、ゴールし終わったグラウンド。

 早矢は、全力でかけぬけた。

 名前のとおり、飛んでいく矢みたいな速さだった。

 風に舞う軽やかな髪。獲物を狩るキツネのように、凛として前を見すえる瞳。きびきびと動く筋張った手足。


 クラスメイトはもちろん、となりのクラスの子たちも。

 下級生も親も、夢中になって早矢を応援した。


 ビリのチームを気づかう応援じゃなくて。

 走る早矢に、魅せられた人たちの声、声。


 笑顔を乗せた車の列が、次々に校門から出て行く中。

 わたしはひとり、小学校の前の細い路地をくだっていった。




 遊ぶ約束なんて、していなかった。


 早矢の言うとおり。わたしには、友だちがいない。


 これも「ズル」したうちに入るのかな?

 早矢の家に行きたくないからって、「ズル」して、ウソをついて。「友だちと遊ぶ」って、ことわったって。



 校庭で体操しているとき。

 学校に行くとちゅう。

 ふいに、目の前に、黒い人の形をした煙があらわれることがある。

 煙はわたしを見つけると、まるで「仲間を見つけた」とでも言うように、すり寄ってくる。


 ふりはらいたくても、はらえない。煙が寄ってくると、気持ち悪くて、吐き気までしてくる。


 だけど、クラスメイトやおとなたちに、煙は見えない。

 元気だったのに、テストの時間になると、とつぜん保健室に行ったり。

 みんなの嫌いなマラソン大会の練習を、とつぜん休んだり。

 そんなわたしは、みんなにとって、ズルをしているようにしか見えない。


「香蘭」なんて、ちょっとすごい、どこかの国のお姫さまみたいな名前で。

「ズル」をする「お姫さま」だから、皮肉って、「ズル姫」。


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