ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしという名の集合体

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「よ、ヨウちゃんっ!」


 琥珀色の髪の毛が動かない。

 肩も、腕も、枯れ木みたいに動かない。


「ヨウちゃん、ご、ごめん! ごめんねっ!!  あたしのせいでっ!!  あたしが……あたしがヨウちゃんを、こんな目に……」


 目から涙があふれてとまらない。かけ寄って、泣いてすがっても、ヨウちゃんは、あたしの胸に、だらりと頭をあずけたまま、目も開けない。


「待ってて! すぐに治してあげるからっ!! 」


 こぶしでごしごし目をこすって、あたしは自分の体から力を抜いた。

 ふわっと、チョウチョの羽が、背中でゆれる。


 チカチカと銀色のりんぷんが、火の粉のように、ヨウちゃんの体にふりそそいでいく。


「……あや……?」


 ヨウちゃんがぼんやりと目を開けた。


「ヨウちゃん? ヨウちゃん、気がついたっ!? 」


 のぞきこむあたしを見あげて、ヨウちゃんが息を飲んだ。


「ば、バカっ! やめろっ!」


 ヨウちゃんがはねおきる。


「おまえ、りんぷんはつかうなって、あんだけ……っ!」


 そのままくらっと体をゆらして、ヨウちゃんはまた、あたしの腕に倒れ込んだ。


「やめろ……りんぷんをつかいきったら、妖精は消滅する……っ! 人間の綾まで……いっしょに……消える……」



「……いいよ……。あたしなんか消えちゃったって……」


 あたしのほおを、冷たい涙が伝った。


「ヨウちゃんを傷つけるあたしなんか……この世から消えてなくなればいい……」


「ち、ちがうだろっ!! 」


 あたしの肩を、硬い両腕が、ガシッと受けとめた。


 ……ヨウちゃん……。


 ぜえぜえ、荒い息をついて。目の焦点はぼんやりゆれて、さだまらない。

 なのに、震える手が、あたしの肩に力を込める。


「綾は、いていいんだ。ここにいなきゃダメなんだっ!!  オレ、前、おまえに『協力して』って言ったろ? なんにもしなくてもいい。どんな姿だっていい。ここに綾が存在してるってことが、オレにとっては『協力』なんだよっ!! 」



 あたしは……いていい……。

 いなくちゃ、ダメ……。




『それは、よいことをきいた』


 店内の天井に老婆の声がこだました。


「な、なあにっ!? 」


 あたしは、ぎゅっとヨウちゃんの肩を抱きしめる。


『ならば、この小娘をつかって、きさまをとことん追いこんでやろう……』



 ぞぞぞ……。

 足元で、モヤが動いた。

 さっきまで、黒い水たまりのように、ゆかにたまっていたモヤ。

 あたしの体の中に巣づくっていたモヤが、もぞもぞと動きながら、ゆかの上に立ちあがってくる。


 肩が横にとびだし、引っ込み。足が外側に折れ曲がり、内側に折れ曲がり。モヤはもぞもぞと、人の形になっていく。


「こいつが……黒いタマゴの中身……」


 ヨウちゃんが上半身を起こそうとしている。だけど、腕をゆかについても、震えてしまって、また倒れ込んでしまう。


「よ、ヨウちゃんは休んでてっ!」


「けど……」


「あたしがなんとかするっ!」


 あたしは、ゆかに落ちていた、エルダーの枝を拾いあげた。

 まっすぐのびる剣みたい。あたしの腕くらいに長くって、小枝はちゃんとはらってある。

 あたしは肩甲骨に力を入れて、羽を背中に引っ込めた。

 枝でゆかをついて、自分の足で自分の体重をささえて、あたしは真っ黒いモヤ人間と向かい合う。



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