ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしという名の集合体

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 くちびるについた黒いモヤをぬぐって、ヨウちゃんはまた、あたしの手首に吸いついた。


 ヨウちゃん……。


 体を支配していた黒いモヤが、どんどんあたしの体の中を移動していく。手首を伝って、体の外へ、ヨウちゃんの体へ吸収されていく……。

 ヨウちゃんが顔をあげて、ゆかにモヤをはき捨てた。


 ……あ……。


 あたしのはだしのつま先が、肌色にもどった。

 ヨウちゃんが、モヤをゆかにはきだすたびに、あたしの足首が下から肌色にかわっていく。


「きさま、やめんか~っ!! 」


 ぶわっと、あたしの指先から、黒い蛇があらわれた。

 至近距離で、ヨウちゃんの腕や胸に巻きつく。

 それなのにヨウちゃん、モヤを吸い出すのをやめない。

 ヨウちゃんのおでこに血管がうきだす。モヤをゆかにはきだすたびに、苦しげに身を丸める。

 それなのに、ハアハア息をつきながら、目から涙をこぼしながら、また、あたしの手の甲に吸いついてくる。


 ヨウちゃん……ヨウちゃん……。


 あたしのせいで……。


「……やめ……ろぅ……」


 老婆の声が、とぎれた。

 胃が軽くなっている。黒いモヤでおおいつくされていた頭の中が、とつぜんからっぽになったみたいに、すっきりしている。

 ヨウちゃんが、ゲホゲホとせき込んだ。そのまま、前のめりになって、ゆかにくずれこんだ。


「……ヨウちゃんっ!」


 あたしの口から、あたしの声が出た。

 自分のぜんぶの指に、ぐっと力を込めて、両手を丸め込む。


 動くっ! あたしの意思で、あたしの体がちゃんと動くっ!!


「やめてぇ~っ!!  これ以上、ヨウちゃんをいじめないで~っ!! 」


 指から出ていた蛇の胴が、ブチブチと切れて、霧に散った。



「あや……」


 ヨウちゃんが、苦しげに首を持ちあげている。


「もう少し……もう少しだ……」


 ゆかを這いずってきて、また、あたしの手首に吸いつく。

 左手の甲の黒がずっと、動いた。手首に開いた出口に、黒はずるずると近づいていく。

 左手の指先に肌色があらわれた。手の甲も肌色にもどっていく。

 まるで、白黒映画の画面が、カラー映画にかわっていくみたい。


 肌色の手。桜色のつめ。ほんのりピンクの関節。



 ず……。


 最後のモヤを吸い込むと、ヨウちゃんは体をふせて、モヤをゆかにはきだした。


 ゲホゲホ、ゲホ……。


 はきだしていたモヤが、胃液にかわる。


 バサ……。


 ヨウちゃんの体は、重い荷物のように、ゆかに横倒しになった。

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