ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしという名の集合体

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 一階にあがると、まぶしい光に包まれた。

 自宅カフェ「つむじ風」の窓は、いつのまにか雨戸で閉め切られ、玄関のドアには、鍵がかけられている。


「お店は臨時休業にしたわ。この枝を、ストーブにくべればいいのね?」


 ヨウちゃんのお母さんが、ストーブの横につみあげられた小枝を、ストーブの火につっこんだ。

 切り口から、ドロッと赤黒い樹液が流れている。樹液は、火の熱でぶくぶくと泡立ち、つんとした木のにおいが立ちのぼってくる。


「こ、これは……エルダーっ! きさま、そういうことかぁっ!!」


 あたしの口から、老婆の声がとどろいた。

 お母さんがハッと目を見開いて、自分の口を手でおおう。


「……綾ちゃん……どうして……?」


「かあさん、ありがとう。あとは、オレがひとりでやれる! かあさんは、店の外に出て、すぐにドアを閉めてっ!」


「で、でも……あぶないわ……」


「へいきだ。オレにだってもう、少しくらいはとうさんの知識がある。かあさん、オレを信じて」


 お母さんは、目を赤く染めて、ヨウちゃんを見つめた。

 琥珀色の目はゆるがない。お母さんよりも高い視線から、まっすぐにお母さんを見おろしている。


「……ヨウちゃん。――ううん。もう、親が息子を、ちゃんづけなんかで呼んじゃダメね。葉児、しっかり、綾ちゃんを救うのよ」


 ヨウちゃんは、視線をそらさずにうなずいた。


 むっと、濃い木のにおいが、店内に充満していく。


「エルダーの枝よ、綾の中にいるモノの真の姿を、オレの前にあぶりだせっ!」


 パアッと、枝全体が、虹色の光に包まれた。


「やめろぉおおおおおっ!! 」


 あたしののどから、つきあげてくる老婆の雄たけび。

 ぶわっと、左右の指先から、黒い蛇がとびだした。

 蛇は、ストーブ目がけて、突進していく。だけど、強いにおいの中、目がくらんだかのように、ぐるぐると身をよじった。目的を失い、四方八方に飛び散る。


 パリンっ!


 蛇の腹にぶつかって、陶器の花びんが割れた。


 バリン、バリン、バリンっ!


 カウンターにならんでいたグラスが倒されて、ゆかに落ちていく。


「かあさん、早く外にっ!」


 ヨウちゃんの声にハッとなって、お母さんがドアからとびだす。バタンとドアが閉まる。

 閉まったドアに、バン、バン、バンっと、黒い蛇がぶちあたった。

蛇は、胴をぶつけ、そのままゆかに落ちていく。


「……くそっ……」


 あたしの口から、荒い息がもれた。

 左手首に、ミミズが這ったような感触が走る。


 うわぁああっ!!


 あたしの左手が、右手首をおさえた。その手のすき間から、ドロッとした黒いモヤがこぼれ落ちてくる。


「き……きさま……ガキのぶんざいで……このわたしを……小娘の中から、追い出す気か……?」


 なにこれ……? 気持ち悪い……。


 モヤがゆっくりと、あたしの体の内側を移動していく。

 左手の甲の出口に向かって……。


「エルダーの枝を火にくべると、魔術をかえてくる相手をあぶりだすことができる。なるほど。それが、おまえの本体か?」

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