ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしという名の集合体

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 雨音が窓をたたいている。

 あたしは、ぼんやりとまぶたを持ちあげた。

 格子状の窓。黒いカーテンを一箇所だけ開けた、うす暗い書斎。

 ただでさえ暗いのに、あたしの視界は、黒いモヤでおおわれていて、なにがどこにあるのか、ぜんぜんわからない。

 かろうじて見える視界の中心に、ブロンズの檻がにぶく光っていた。


 鳥かご。鳥かご。鳥かご。


 書斎の中は、鳥かごだらけ。

 その中には、黒い小枝のようなモノが捕らえられていて、銀色の羽をばたつかせている。


「あ……あたしの……足……」


 あたしはふらふらと、ひとつの鳥かごに近寄っていった。

 右手を天にさしあげ、天井からぶらさがっている鳥かごをぐいっと、つかむ。


 ガタンと、鳥かごがゆかに落ちた。

 止めネジがはずれて、かごの入り口が壊れる。


「あたしの……足……」


 あたしは、かごの中に手をつっこんだ。

 黒い妖精の胴を、横からわしづかみにして、かごから引き出す。


「チチチチッチチチチ」


 黒い妖精が体をゆすってもがいた。

 もがけばもがくほど、きつくにぎりこんでやる。

 苦しげに身をよじって、妖精はもがく力を失っていく。


 おもしろい。


 反抗する者が、反抗しきれずに、あたしの力にひれ伏していく。


 おもしろい。


 あたしは、妖精の肩に吸いついた。

 甘いアケビの蜜を吸うように、ずずずと黒いモヤをのどの中に吸収する。

 モヤがどくどくと、あたしの胃を満たしていく。


 妖精の皮膚から、下の肌色があらわれた。

 色白の手足。ウエーブがかかった長い金髪。

 くたりと横たわった妖精は、真っ白いロングドレスを身につけている。


 ……ヒメ……。


「これ……もう、いらない」


 あたしは、ヒメの体を、ぽいっとゆかに投げ捨てた。


「もっと……もっと、ほかのがほしい……」


 うめくような、あたしの声。しわがれた老婆の声。


「あたしの……左足……」


 つめを立てて、ゆかに置かれた鳥かごをこじ開ける。中の妖精をわしづかみにする。


「あたしの首……あたしの目……あたしの耳……」


 次々に鳥かごを開け、左右の手に、妖精をつかんでは、食らいつく。


 ずずず……。

 ずずず……。


 あたしのくちびるからあふれだすのは、吸いきれなかった黒いモヤ。足元に、残骸のように散らばるのは、吸いつくされて白くもどった妖精たち。



 ガタン。


 音がした。

 あたしがむさぼるのとは、ちがう音。

 ドアのところから、だれかの足音が近づいてくる。

 大またで、こっちに歩いてきたかと思うと、目の前に立ちはだかり、右手首を、ぐっとつかみあげられた。

 一枚だけ開いたカーテンから、外のにぶい光がもれている。その光が、石膏のようにかたまった、白いほおをうつしだす。


「あ……あ……綾っ!?  お、お、お、おまえ、な、な、な、なにやってんだっ 」


 ……ヨウちゃん。


 あたしの手首をつかむ、大きな手、震えてる。

 だけど、あたしの口は、雷鳴のようにさけんでいた。



「……きさま……あのときのクソガキか……っ!? 」

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