ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 あたしという名の集合体

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「きゃっ!! 」


 寒気が走って、あたしはとびのいた。


「だ、だれっ!? 」


 真っ暗闇。なんにも見えない。


「だれか、いるのっ!? 」


 闇の中を羽音が横ぎった。


「チチっ!? 」


 だけど、左耳からも羽音がする。

 頭のてっぺんからも。

 足元からも。


「どこにいるのっ? だれなのっ!? 」


 たくさんの羽音。カタカタと何かがぶつかり合わさる音。

 あたしは窓に走り寄った。

 バッと黒いカーテンを開ける。

 灰色の雲が見えた。灰色の海に雨をふらせている。


 荒い息をはいてふり返ると、書斎の中で、たくさんのドーム型の影がゆれていた。


「……え?」


 ドーム型をした、ブロンズ製の鳥かご。

 天井から、つりさげられたり。ゆかに直接置かれたり。スタンドにかかっていたり。

 十数個の鳥かごが、書斎全体をうめつくしている。


 天井からぶらさがる鳥かごで、黒い影がはばたいた。飛んですぐに檻にぶつかり、底に落下して、またすぐに飛びあがる。

 ゆかに置いてある鳥かごからも、羽音がきこえた。

 スタンドの鳥かごでは、両手でかごの檻をつかんで、黒い妖精が、ガタガタと体をゆすっている。


「こ、これ……。ヨウちゃんが浅山で捕まえたっていう……」



『――そうだ』


 しわがれた声が脳に直接響いた。


「きゃっ!! 」


 両手で耳を押さえて、ちぢこまる。


『ここにいるモノたちは、すべて、わたしの体。
わたしの腕、心臓、足、羽、首……』


「だ、だれっ!?  だれなのっ!? 」


『だれでもない。
 わたしは、だれにもなれない。
 あの忌々しい人間のクソガキに、産まれる前に壊されたのだから』


「に、人間の……くそがき……?」


 部屋中にムカデが這いずるような、せせら笑いが走った。

 窓に背中をつけて立ちつくす。

 あたしの鼻先に、つっと一匹の黒い妖精がおりてきた。

 真っ黒に染まってしまった、バレリーナみたいな衣装。髪を後ろにまとめて。つんとした鼻。小さなくちびる。


「ち……チチ……? まさか……この声……チチが出してるのっ!? 」


 チチのくちびるの左端だけが持ちあがった。黒い顔から、ピンク色の歯ぐきがのぞく。


『この妖精の中にいるのは、わたしの思考のひとかけら。
 のこりのかけらが入っているのは、おまえの頭の中。
 ここにいる妖精、おまえをふくめて、ぜんぶを足して、わたしはひとり。

 体がほしい。

 すべてを統合できる、大きな体。
 妖精の羽を持った……人間の体……』


 青いつりあがり型の寄り目が、ホタルのように冷たく光った。


「きゃっ! ヤダっ! やめて、来ないでっ!! 」


 頭上に、ぶわっと黒い手が、檻のように広がっていく。

 黒いモヤがあつまって形づくられた、巨大な手。


『小娘……。
 おまえなど取るに足らない、ムダな存在。
 さっさと、そのくだらない意志を消せ。

 そして、わたしの入れ物になれ……』


 ザアアアアアアっ !!


 脳に、雨しぶきがあたる音がした。

 騒音で頭が割れそうなほど痛い。


 あたしは、だれ?



 ここは、どこ?




 思考回路が、ぷつん、ぷつんと、とぎれていく――。

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