ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 黒い妖精の黒いワナ

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「あ……そう。バっカじゃない……?」


 リンちゃんの目に涙がうかんだ。


「……悪いけど、和泉さんがどうかとかなんて、わたしにはぜんぜん興味ないから。ただ、中条君が気にしてるみたいだから、ちょっとつついてみただけに、決まってんでしょ」


 あれ……?


 リンちゃん、ヘン。

 つりあがり型のカワイイ猫目が、ドロドロと黒く濁ってる。


「……そんなことより、わたしには、中条君が必要なの。あんたよりもずっと前から、わたしは、中条君だけを見てきたの。なのに、おかしいよね。なんで、中条君はわたしじゃなくって、あんたなんかを選ぶのよ」


「……あたし……なんか……?」


「あんたなんかよ! お子ちゃまで、なんにもできなくて。いっつも、中条君にもたれかかって。中条君をふりまわして。中条君のお荷物で。なのに、その自覚もなくてっ!」


 あたしもヘン。


 リンちゃんに一言言われるたびに、心臓をスパスパ、刃物で切られていくみたい。

 マロウの薬で治したはずの傷口まで、パカって赤く開いて、体の中に、黒いモヤがあふれだしてくる。


「だいたい、わたしが、試験に落ちたのは、和泉さんのせいだからねっ! 和泉さんが、わたしから中条君を取りあげたからっ! あんたのせいで、勉強が手につかなくなったのっ! 責任とって、いなくなってよっ!! 」


「い……いなく……なる……?」


「綾っ! 倉橋の言葉を真に受けるなっ!! 」


 ヨウちゃんが、あたしの後ろからとびだした。そのまま、リンちゃんのほうに向かっていって、リンちゃんの右肩に手をのばす。


「きゃっ!」


 ヨウちゃんが手をのばした先。

 リンちゃんの右肩に、黒い炭みたいな、小さな体がのっかってた。銀色の羽のはえた生き物。


 黒い妖精っ!?


 妖精はパッと飛び立った。

 銀色の羽で、ヨウちゃんの顔に突進。


「うわっ!? 」


 とっさに手ではらったヨウちゃんが、理科室のイスの足を取られて、前のめりになる。


 ガタン、ドシン! ドスンっ!!


「きゃああっ!! 」


 リンちゃんの悲鳴。


「くっ! 逃げられたっ!! 」


 ヨウちゃんが倒れ込んだ姿勢のまま、ドンと、ゆかをこぶしでたたいた。


「……な、中条君……」


「え? ……く……倉橋……?」


 心臓が、ドクンドクンとうるさい。

 あたしの心臓についたたくさんの傷口が、伸縮をくり返しながら、黒いモヤを吐き出している。

 あふれだした黒いモヤが、あたしの腕や足の内側に、血液みたいに送りだされる。

 リンちゃんが、あおむけになって、ヨウちゃんの下に寝そべっていた。ほっぺたをピンクに染めて、おおいかぶさるヨウちゃんの顔に、ぽーと見とれてる。



「ち、ちがうっ!」


 ヨウちゃんが、ガバっとはね起きた。


「倉橋、ごめんっ! これは、ちがうぞ。事故だっ!! 」


「……よ、ヨウちゃんが……。ヨウちゃんとリンちゃんと……。や、やっぱりヨウちゃんは、リンちゃんがいいんだ……。おとなっぽい子がいいんだ……。あ、あたしなんか……あたしなんか……」


 頭の中がぐるぐるする。

 なにか正解じゃないことを言ってる気がするのに、目の前に見えるものでしか、頭が判断できない。


「なに言ってんだ、綾っ!?  今のしっかり見てただろっ!? 」


 さけんだヨウちゃんの背中に、リンちゃんがぎゅっと抱きついた。


「いいよ、中条君。気にしないで、つづき」


 パッと、教室が明るくなった。


「う、うわっ!? 」

「きゃっ!」

「や、ヤダっ!!  三人して、こんなとこで、なにしてんのっ!? 」


 あたしは、理科室の入り口をぼんやりとあおいだ。

 青森さんが蛍光灯のスイッチに手をかけたまま、あわあわしてる。




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