ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 広がりゆく闇

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 ……だれ……?


『おまえのようなできそこない、人に助けてもらえるような、価値などない』


 しわがれた老婆みたいな声――。


 コンコン。

 ドアが外側からノックされた。

 あたしは、ぎゅっと、ふとんのはしをにぎった。


「ママっ!!  ほっといてって、言ってるでしょっ!?  きょうは夕飯いらないっ! このまま、寝るのっ!! 」



「……綾。オレだよ」


 ドキンと心臓が鳴った。


「……ヨウちゃん……?」


 もうひとつの足音も、階段をのぼってくる。


「綾、入るわよ」


 ママの声。

 ガチャっと、外側から部屋のドアを開けられる。


「あんた、まだ、そんなとこに丸まってたのっ!?  いいかげんにふとんから出てきなさい。葉児君がわざわざ、こんな時間に、あんたに会いに来てくれたのよっ!」


 と思ったら、ママは急に、キレイなおねえさま声になった。


「ごめんなさいね~、葉児君。この子、さっきから、こんななのよ。コーヒー飲める? お砂糖とミルク、ひとつずつでいい? ここに置いておくわね」


「あ。どうも、すみません」


 カチャカチャと、マグカップをつくえに置く音。


「……あの、お母さん」


 廊下のほうへ遠ざかっていくママの足音を、ヨウちゃんの声が引きとめた。


「え、えっと……。あの、オレ……綾さんとおつきあいさせてもらってますっ! ガキのくせにって、笑われることは、わかってます。けど……真剣です。綾さんを大切にします! だ、だ、だから、あ、綾さんといっしょにいることを、許してくださいっ!」


 ……ヨウちゃん……。


 あたしはそろっと、ふとんのすき間から、目を出した。

 ヨウちゃんは気をつけして、ママに深く頭をさげている。わきの下におろした指先、震えてる。


 これ……。

 あたしが学校で、めちゃくちゃにわめいちゃったことに対する、ヨウちゃんの返事……。


「そう。真剣なの……」


 ママはかみしめるみたいに、つぶやいた。


「よかったわ。綾が、ひとりで勝手に舞いあがってただけじゃなかったのね。葉児君から、そう言ってもらえると、わたしもうれしいわ」


「は、はい」


 ヨウちゃん、もっと深く頭をさげる。


「つきあうのは、当人同士のことよ。親がとめたりなんてしないから、安心して。……でもね。真剣だって言うなら、お互いの気持ちを大切にして、自分がどう動くかを考えていってほしいの。

なにがあったのかは知らないけど、こんな夜になってまで、ここまで来てくれたんだから。ゆっくり綾と、話し合ってちょうだいね」


「……はい」


 ママ……あたしとヨウちゃんが、ケンカしたと思ってるんだ……。


「綾もよっ! どうせ、きいてるんでしょ? 葉児君がこうして来てくれたのに、一方的に拒絶してるようじゃ、あんたのイチゴジャムみたいに甘っちょろい恋なんか、今、この瞬間に終わるわねっ!」


 うっ~! ズキズキっ!!


「じゃ、葉児君、手のかかる娘で悪いけど、よろしくね」


「は、はいっ!」


 ママは、ぷっくりつやつやのくちびるでほほえんで、部屋のドアから出て行った。

 トントンと、階段を小さくなっていくママの足音。

 その足音がきこえなくなって、また、時計の針の音がきこえだして。


「……はぁ……緊張した……」


 耳横で、ギッと、ベッドがきしんだ。

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