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3 広がりゆく闇
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しおりを挟むヘンなの。
なんで、ヨウちゃん、あたしの家に来るぐらいで、取り乱すんだろ?
「それはさ。なんていうか……『娘さんをください』って、親にあいさつしに行く気分じゃないのか?」
あたしがぶうぶう言っていたら、真央ちゃんは、かぶった紅白帽ごと、頭をぽりぽりかいた。
「え~? あたしは単純に、ヨウちゃんに、うちに遊びに来てほしいだけなんだよ~?」
ここは、花田小の体育館の中。
ひしめき合う全校児童、百人以上。全員、紺のジャージの上下に、紅白帽姿。
ただ今、お昼休みを返上して、全校行事の「長縄大会」を、開催中。
毎年、校庭でやってるんだけど、今年は溶けた雪で校庭がぬかるんでて、つかえないなら、体育館に変更なんだって。そこまでしてやらないでも、中止にしちゃえばよかったのに。
ジャージのそで口に手をつっ込んで、ぶうたれてたら、見慣れた琥珀色の髪の男子がやってきた。
「六年生、集合~。五年が終わったら、次、オレらの番だぞっ!」
手をメガホンみたいに丸めて、クラスメイトたちをあつめてる。
ヨウちゃんは体育委員。体育の行事だと、いつも、まとめ役をさせられる。
長縄大会は、一学年全員、二十数人で、一本の長縄をとぶ。で、とべた数を競う。
だけど、一年、二年、三年って、学年があがるごとに、とべる数も増えていって。六年が優勝って言うのが、毎年の恒例。
ちなみに花田小学校は田舎町にあるから、一学年、一クラスずつ。
「五十~っ!」
長縄をとんでいる五年生たちから、ワッと歓声があがった。
それでもまだ、だれひとりつっかからないで、長縄はまわっていく。
「五十一、五十二、五十三……」
「スゴイな、今年の五年……」
まわりで、男子たちが、ひそひそしはじめた。
「去年の六年でも、最高四十一だったよな」
「おまえら、ぜったいに五年以上とべよ。五年ごときに負けたら、最高学年のはじだぞ」
大岩が、岩みたいにごっつい体で、窪や田中ににらみをきかせてる。
「誠も。おちゃらけてねぇで、マジメにやれよ!」
「あはは。は~い。大岩ぃ~。そんな怖い顔すんなって~」
紅白帽をウルトラマンにかぶって、誠はへらへら。
どうしよう……。
足が震えてきた……。
「い~ち。に~い」
長縄がまわっていく。
「さ~ん。し~」
太い縄が自分の足元に来るタイミングで、足を高くあげる。
「ご~。ろ~く」
六年、二十三人が縄にそって、ずらっとならんで。ピョン、ピョン。
縄の真ん中には、クラスで一番身長が低い、女子と男子がとなりあってる。つまり、あたしと誠。
で、縄の外側に行くほど、背の高い子になっていく。だから、右側の一番はじがヨウちゃんで、左側の一番はじが有香ちゃん。
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
横には、誠。有香ちゃんも真央ちゃんも、ヨウちゃんだって、おんなじ縄の中にいるんだから。
なのに、足がガタガタ。棒みたい。
一定のリズムを取るのって、頭で意識したとたんに、わけがわかんなくなる。
前にリコーダーのテストのときに、「拍がとれてない」ってヨウちゃんに言われたけど。ここに来て、また、その欠点が出てくるなんて!
「し~ち。は~ち」
あ……なんか、頭の中ぐるぐる……。
「和泉、九っ!」
横で誠がさけんだ。
あっ! まだ、足をあげてないっ!
目の前が真っ白になったときには、遅い。
パシっ!
右足首を縄が打ちつけた。
「っあ~っ!! 」
体育館の中がどよめいた。
六年をかこんで、一年から五年までの子どもたちが、あたしの足に注目している。
長縄は、あたしの右足にあたって、とまっていた。
「六年の記録、八回!」
「ええ~っ!? 」
男子たちから大ブーイング。
「先生、今のナシ! もう一回勝負っ!! 」
だけど体育の恩田おんだ先生は、メガホンでさけんだ。
「一発勝負っ! よって、六十八回で、五年生が優勝です!」
「わあ~っ!! 」
五年生たちから、歓声があがった。
「今年の六年、しょぼ~っ!」
「楽勝じゃんっ!! 」
「どっちが年上だよ~っ!! 」
もりあがる五年生と、拍手する下級生たちの中で、六年生たちはぼうぜんとして、立ちつくした。
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