ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
261 / 646
3 広がりゆく闇

23

しおりを挟む



 ヘンなの。

 なんで、ヨウちゃん、あたしの家に来るぐらいで、取り乱すんだろ?


「それはさ。なんていうか……『娘さんをください』って、親にあいさつしに行く気分じゃないのか?」


 あたしがぶうぶう言っていたら、真央ちゃんは、かぶった紅白帽ごと、頭をぽりぽりかいた。


「え~? あたしは単純に、ヨウちゃんに、うちに遊びに来てほしいだけなんだよ~?」


 ここは、花田小の体育館の中。

 ひしめき合う全校児童、百人以上。全員、紺のジャージの上下に、紅白帽姿。

 ただ今、お昼休みを返上して、全校行事の「長縄大会」を、開催中。


 毎年、校庭でやってるんだけど、今年は溶けた雪で校庭がぬかるんでて、つかえないなら、体育館に変更なんだって。そこまでしてやらないでも、中止にしちゃえばよかったのに。

 ジャージのそで口に手をつっ込んで、ぶうたれてたら、見慣れた琥珀色の髪の男子がやってきた。


「六年生、集合~。五年が終わったら、次、オレらの番だぞっ!」


 手をメガホンみたいに丸めて、クラスメイトたちをあつめてる。

 ヨウちゃんは体育委員。体育の行事だと、いつも、まとめ役をさせられる。


 長縄大会は、一学年全員、二十数人で、一本の長縄をとぶ。で、とべた数を競う。

 だけど、一年、二年、三年って、学年があがるごとに、とべる数も増えていって。六年が優勝って言うのが、毎年の恒例。

 ちなみに花田小学校は田舎町にあるから、一学年、一クラスずつ。


「五十~っ!」


 長縄をとんでいる五年生たちから、ワッと歓声があがった。

 それでもまだ、だれひとりつっかからないで、長縄はまわっていく。


「五十一、五十二、五十三……」


「スゴイな、今年の五年……」


 まわりで、男子たちが、ひそひそしはじめた。


「去年の六年でも、最高四十一だったよな」

「おまえら、ぜったいに五年以上とべよ。五年ごときに負けたら、最高学年のはじだぞ」


 大岩が、岩みたいにごっつい体で、窪や田中ににらみをきかせてる。


「誠も。おちゃらけてねぇで、マジメにやれよ!」

「あはは。は~い。大岩ぃ~。そんな怖い顔すんなって~」


 紅白帽をウルトラマンにかぶって、誠はへらへら。


 どうしよう……。

 足が震えてきた……。





「い~ち。に~い」


 長縄がまわっていく。


「さ~ん。し~」


 太い縄が自分の足元に来るタイミングで、足を高くあげる。


「ご~。ろ~く」


 六年、二十三人が縄にそって、ずらっとならんで。ピョン、ピョン。

 縄の真ん中には、クラスで一番身長が低い、女子と男子がとなりあってる。つまり、あたしと誠。

 で、縄の外側に行くほど、背の高い子になっていく。だから、右側の一番はじがヨウちゃんで、左側の一番はじが有香ちゃん。


 だいじょうぶ、だいじょうぶ。


 横には、誠。有香ちゃんも真央ちゃんも、ヨウちゃんだって、おんなじ縄の中にいるんだから。

 なのに、足がガタガタ。棒みたい。

 一定のリズムを取るのって、頭で意識したとたんに、わけがわかんなくなる。

 前にリコーダーのテストのときに、「拍がとれてない」ってヨウちゃんに言われたけど。ここに来て、また、その欠点が出てくるなんて!


「し~ち。は~ち」


 あ……なんか、頭の中ぐるぐる……。


「和泉、九っ!」


 横で誠がさけんだ。


 あっ! まだ、足をあげてないっ!


 目の前が真っ白になったときには、遅い。


 パシっ!


 右足首を縄が打ちつけた。


「っあ~っ!! 」


 体育館の中がどよめいた。

 六年をかこんで、一年から五年までの子どもたちが、あたしの足に注目している。

 長縄は、あたしの右足にあたって、とまっていた。


「六年の記録、八回!」


「ええ~っ!? 」


 男子たちから大ブーイング。


「先生、今のナシ! もう一回勝負っ!! 」


 だけど体育の恩田おんだ先生は、メガホンでさけんだ。


「一発勝負っ! よって、六十八回で、五年生が優勝です!」


「わあ~っ!! 」


 五年生たちから、歓声があがった。


「今年の六年、しょぼ~っ!」

「楽勝じゃんっ!! 」

「どっちが年上だよ~っ!! 」


 もりあがる五年生と、拍手する下級生たちの中で、六年生たちはぼうぜんとして、立ちつくした。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―

くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」 クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。 「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」 誰も宝君を、覚えていない。 そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 『小栗判官』をご存知ですか? 説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。 『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。 主人公は小学六年生――。 *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

ホタルまつりで会おうね

くまの広珠
児童書・童話
「なんでも屋さんのおじいさんにね、言われたの。 とっても、大事にしていたものと、おわかれしなきゃならないときは、ホタルまつりに行きなさい。 大事にしていた人には、ホタルまつりに行かなければならない、せきにんがあるんだって」 エブリスタにも掲載しました。 小学2年の少女ふたりの、ちょっと不思議で物悲しい、小さな冒険物語です。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

処理中です...