ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 もうひとつのカップル

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「こいつっ! また、どっかに飛んでく気だっ!」


 ヨウちゃんが身をのりだして、パンっと、また柏手を打った。


「イテ、イテっ! 手の中で暴れるなっ!!  綾、上行ってかあさんから、かごか、プラケースか、もらってこいっ!」


「わかったっ!」


 あたしは書斎からとびだした。




「――あったか?」


 鳥かごを抱えて書斎にもどると、ヨウちゃんはすぐに、鳥かごのふたを開けて、中に黒い妖精を入れた。

 ふたを閉めたあと、針金まで持ってきて、取っ手の金具が開かないように、ぐるぐる巻きにしてる。


「ねぇ……そこまでする必要ある?」


「あるね。おまえは知らないだろうけど、綾が帰ってくるまで、こっちはさんざんだったんだよ。こいつ、逃げだそうとして、オレの手、引っかくは、かみつくは、羽で切るはで」


 鳥かごをのぞいたら、妖精は、ピンポン玉みたいに、あっちにこっちに飛んでは、檻に激突してをくり返していた。


 ホントに、凶暴なハチになっちゃったみたい……。


 ヨウちゃんは「あ~、イテぇ~」なんて、手のひらをヒラヒラさせながら、「レモンバームの塗り薬」って書かれたビンをおろしてきて、中の薬を手のひらに塗りつけてる。


 妖精から受けた傷は、人間の薬じゃ治らない。

 だからこういう、フェアリー・ドクターがつくった薬をつかう。

 で、フェアリー・ドクターのヨウちゃんは、いざというときにそなえて、たくさんの薬ビンをため込んでいる。


「いったい、なにが起きてんだろな……。オレ、正月からずっと、とうさんの本を訳してるんだけど、黒いタマゴの中身については、やっぱり、ほとんど記述がないんだ。もしかしたら、とうさんも知らなかったのかもな……」

 ヨウちゃんは身をかがめて、ゆかのランドセルから、チョコレート色のカバーのかかった分厚い本を取りだしてきた。


「あ……それ、学校で見せびらかしてた、英文書っ!」

「しつれいなヤツだな。『見せびらかしてた』んじゃなくて、『読んでた』んだよ。ほら、辞書だってある」


 次にランドセルから出てきたのは、カードみたいにうすっぺらい電子辞書。


「ウソっ!?  いつの間に、そんな新兵器をっ!? 」

「お年玉で買った。――とりあえず今、わかってることをまとめるぞ。とうさんの本に書いてあったことは、ふたつだ。『妖精のタマゴは、周囲の環境にすごく影響される。だから、環境のせいで黒くなった』。それから、『タマゴが黒いと、産まれてくる妖精も、ふつうとはちがうものになる』」


「……うん」


「あと、きょう、わかったこと。妖精は黒くなると、凶暴になる。それは、こいつを見れば、一目瞭然だ。

それと……黒い妖精は、人にとり憑く……のか? 青森と窪がケンカになったとき、青森が急に、矛先をおまえにかえて、ののしりだしただろ? あれは、おかしかったよな」


「黒い妖精が、青森さんに、あたしの悪口を言わせてたってこと?」


「いや、まだ確かじゃないけど……。それに、目的がよくわからない……」


 腕を組んで考え込んでいた、ヨウちゃんの片眉があがった。


「綾っ! おまえ、ちょっと左手見せてみろっ!」


「ほ、ほぇっ!? 」


 左腕をつかまれて、トレーナーのそでを、ぐいっとたくしあげられる。


 ……ウソ……。


 左腕が真っ黒に染まってた。

 手の甲から二の腕まで。たくしあげてもたくしあげても、気持ち悪いくらいに、黒が出てくる。

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