ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 もうひとつのカップル

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 校舎の陰に、細い体の男子が、ぬぼっとつっ立っている。

 窪が、細い目をつりあげて、ヨウちゃんをにらんでる。


「……窪。綾……」


 ぎゃっ! ついでに、あたしまで見つかったっ!


「智士君……」


 窪が大またであたしの横をすり抜けていく。と、思ったら、ヨウちゃんの胸につかみかかった。


 って、ええええっ !?


「てめぇ、葉児っ! なに、人のカノジョに手ぇ出してんだよっ!!  ちょっと顔がいいくらいで、いい気になってんじゃねぇっ!! 」


「……なんだ、窪。おまえやっぱ、青森を自分のカノジョだって、しっかり認めてんじゃねぇか」


 コートの胸倉をつかまれながらも、ポケットに両手をつっこんで、ヨウちゃん、しらり顔。

 だけど、青森さんの目はうるんでる。


「ちがうの、智士君! 中条君はわたしの話をきいてくれてただけなのっ!」


「紀伊美っ!!  そんなに、葉児がいいのか? オレとつきあってもまだ、紀伊美は、葉児のことが好きなのかっ!! 」


「ち、ちがうっ!!  わたしが今、好きなのは……」


 だけど窪、青森さんの声をさえぎって、たたみかける。


「よかったじゃねぇか、紀伊美っ! オレさっき、教室で、紀伊美とつきあってない宣言してやったもんな! これであとくされなく、葉児にもどれるなっ!! 」


「……いいかげんにしろよ、窪」


 氷みたいな視線が、窪の脳天につきささった。


 う……怖い。


 琥珀色の目が、するどく細まって、窪を見おろしている。


「おまえ、少しは冷静になれ。青森の顔を見てみろ」


 圧倒されて、窪が一歩さがる。手が、ヨウちゃんのモッズコートの胸元からはなれる。

 目をしぱしぱさせて、青森さんをうかがい見て。

 窪のあごがこわばった。


「……き……紀伊美……ご、ごめん……オレ、ついカッとなって……」


 青森さんのほおを、涙が伝っていく。

 前髪をピンでとめて、おでこを出して。いつもは元気に弧を描く眉が、今は弱々しくゆがんでる。

 青森さんの目の奥が黒い。ドロッとした深い闇みたい。


 だけど、その目が向けられているのは、あたし。


 みんなから数メートルはなれた、校舎の陰に立つあたし。


 ……なんで……?


「――和泉さんのせいだ」


 青森さんのくちびるから声がこぼれた。


「……え……?」


 窪がまばたきしてふり返る。

 ヨウちゃんも顔をあげて、あたしを見る。


 涙を流しながら、青森さんのくちびるは、冷たく笑ってる。


「ねぇ、和泉さん? どうして、こんなタイミングで、智士君をここにつれてきたわけ? ねぇ、なんの嫌がらせよ? わたしと中条君が話してるところを、智士君に見せたかった? それで、わたしと智士君との仲を引き裂きたかった?」


「えっ!?  ええっ!? ち、ち、ちがうよ、偶然だよ! あたしが先に来てて……。窪が、たまたま、あたしの後ろから来ただけでっ!」


「ふ~ん。そう? 偶然なの。それにしても、イヤな偶然ばっかりつづくよね。和泉さんがいると、昔からホント、ろくなことがない……。

わたしが、中条君にフラれちゃったのは、あんたのせい。クラスに、わたしと智士君がつきあってることをバラしたのも、あんた。おまけに、今、こんなタイミングで、あんたは智士君をここにつれてきた。悪いのはぜんぶ、和泉さんのせいっ!! 」


「あ……あたしの……せい……?」


 ピリッと心臓が痛んだ。


 ……イタ……。


 なんだろ? うすい妖精の羽で、スパッと心臓を切られたみたい……。
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