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2 もうひとつのカップル
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しおりを挟む朝日を浴びる小学校の三階の廊下。にぎやかな子どもたちの声がこだましている。
冬休み明け。
六年生の教室の壁にはまだ、三学期の目標や、みんなの絵をはってない。そのせいで教室は、やけに寒々として見える。
「真央ちゃん、有香ちゃん、おはよ~」
大きな声であいさつしたら、ふり返ったふたりが、そろって口に人差し指を立てた。
「綾ちゃん、し~っ!」
「ほぇ?」
ふたりが気にしているほうを見たら、リンちゃんや青森さんや窪や青木たちが、もう席についていて、参考書を開いてた。
「みんな、きょうは学校に来るのが早いんだね。三学期の始業式がはじまるまで、まだ、二十分もあるよ?」
「私立中学受験組だよ。朝、一時間前から来て、補習やってたらしいぞ」
真央ちゃんが、かなり太めの腕を組んだ。
真央ちゃんは、態度も言葉づかいも男の子みたい。だけど、大福みたいなふっくらほっぺも、くしゃくしゃ天然パーマのボブ頭も、すごくやわらかくって、とっても女の子だと思う。
「試験まで、あと一ヶ月切っちゃったもんね。勉強に集中したいだろうから、わたしたち公立組は静かにしてようね」
有香ちゃんも、知的な黒縁メガネを鼻の上に押しあげた。バレエできたえた、すらっと細い体。長いしなやかな手足。
黒いつやつやの髪を、ふたつにむすんで胸にたらして。同じ歳なのに、有香ちゃんは、まるでたよれるオネエサマ。
ふたりとも、一年生のころからのあたしの親友。
それにしても、受験って、たいへんなんだ……。
あのオシャレ好きなリンちゃんが。今は、ツインテールをふり乱して、目をつりあげて、赤鬼みたいなんだもん。
青森さんも太い眉毛をしかめて、参考書をめくってる。
教室の中でヨウちゃんの姿をさがしたけど、真ん中の列の、一番後ろの席は、まだ、からっぽだった。
あたしたち、公立中学組は、のんきなもの。あと三ヶ月で中学生だっていうのに、勉強の量も生活のリズムも、今までとちっともかわってない。
「みんな~、おっはよ~っ!! 」
廊下から、バタバタと足音が近づいてきたと思ったら、誠のちびっこい体が、教室にとびこんできた。
受験組がいっせいに顔をあげて、誠をにらみつける。
「ま、誠っ! し~っ!」
今度はあたしも、真央ちゃんたちといっしょになって。口に人差し指を立てて。
「あれぇ? どしたの~?」
誠は、大きな二重の目をクリクリ。
なんか拍子抜け。
誠とは、クリスマスに、ちょっとすごい別れ方したんだよ。
誠ってば、「ヨウちゃんからあたしを奪って、カレシになる」みたいなこと言ったんだから。
でも、きょうの誠は、ふだんどおり。
おサルみたいに、丸い横に広がった大きな耳。
綿のぬけかかった紺色のダウンジャケットを着て。パジャマみたいなグレーのスウェットをはいて。うわばきのかかとを踏みつぶして。
クリスマスのときみたいな、オシャレなかっこうをしていれば、アイドル好きの女子たちの目だって、かわってくるだろうにさ。
「おまえら、教室の入り口でなにやってんだよ?」
しらけた低い声にふり返ったら、ヨウちゃんがドア枠に腕でもたれてた。
モッズコートのポケットに左手だけつっこんで、右肩にグレーのランドセルをかけている。
こっちのほうは、いつ、だれが見ても、イケメンなんだよね。
服は、たいてい白か黒かグレーのトレーナーにジーンズで、たいして気をつかってないみたいなのにさ。顔立ちがイギリス人で、背がすらっと高いもんだから。いろいろ得してる。
「あ、ヨウちゃん、おはよ~」
「にこ~」って、笑いかけたけど、ヨウちゃん、眉をひそめて、怖い顔。
ぐいっと、後ろに肩を引かれたと思ったら、ヨウちゃんは、あたしと誠の真ん中に、ヌリカベみたいに立ちはだかった。
わ……敵意むきだし……。
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