ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 浅山にて

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「……治った……」


 ヨウちゃんが息をはいた。


「ホントだっ! な、治ったっ! 治ったよっ! すごい! 鵤さん、ありがとうっ!! 」


「いやいや。わたしも、ホッとした。だがね、綾ちゃん。用心しなければならないよ。マロウの液剤は、痛み止めのようなものだ。風邪で言う『ウィルス』を、体から追い出したことにはならないんだよ」


「……妖精のつかう悪い魔術から、身を守ることはできる。でも、魔術をつかう妖精自体をどうにかしないかぎり、問題を完全に解決したことにはならない……ってわけか」


 ヨウちゃんの眉間にまた、ぎゅっと深いシワが寄る。


「考えるのはあとあと! ね、早く、この子たちも薬で治してあげよう!」


 あたしは黒い妖精をひとり、拾いあげた。

 ごわごわと硬い。棒切れみたい。ちぢれたショートヘアも、服のかわりに体に巻いた葉っぱまで、真っ黒。


 この子、赤毛だった男の子だ……。


 こないだは、ふくらはぎに、ちょっとアザがあっただけ。


 なのに、どうして……。


 ヨウちゃんが、マロウの液剤を人さし指の先にこぼす。その指先で、黒い妖精の肩にふれる。


「わっ!? 」


 ヨウちゃんが、人さし指を引っ込めた。



 黒い顔の中で、妖精の目が、青く見開かれている。


 ……え? 

 な、なに……?


 寒い……。


 背中にとつぜん、巨大な氷を押しあてられたみたい。

 あたしの手のひらの上で、妖精が腕をついて、黒い体を起こしてる。

 銀色のトンボの羽が、ピンと張られていく。


「と、飛ぶっ!」


 真っ黒の妖精は、羽をはばたかせて飛び立った。


「うわっ!? 」


 顔をおおったヨウちゃんの腕に、激突しそうになって。数ミリ手前で、パッと真上にとびあがって。

 コントロールを失った飛行機みたい。


「あ、綾っ! 足元っ!! 」


 ハッと足を引いた。

 黒い妖精たちが、次々に頭を持ちあげている。


 むくり。

 むくり。

 むくり……。


 砲弾倉庫跡のガランと四角い部屋のうす闇。鎌首のように身をもたげていく、黒い物体。

 ヨウちゃんが、ふらふらと後ずさった。

 ぺたん、尻もちをつく。


 三、四、五、六、七人……。


 黒い顔の中から、青い目だけが、ホタルの光のようにうかびあがっている。


 羽を広げて、妖精たちが飛びたった。


 ひとり、ふたり、三人……。


 次々に羽を広げて、宙に舞う。

 直線に飛んで。砲弾倉庫跡の部屋の、レンガの壁にぶつかりそうになって。と思ったら、逆に飛んで、お互いの肩にぶつかって。


 出ていっちゃうっ!




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