238 / 646
1 浅山にて
2
しおりを挟む「……黒いタマゴの中身が……まだ、どこかに生きてるってことか……?」
琥珀色の前髪の下で、髪とおそろいの琥珀色の瞳がゆがんでる。
ヨウちゃんのお父さんはイギリス人。お母さんは日本人。だからヨウちゃんは、ハーフ。
鵤さんは、灰色のひげの間から、深い息をはきだした。
「わたしもね、昨晩ここに来てみて、はじめてこの惨状を知ったんだ。たしかに、おかしいよね。アザが進行していくだけではあき足りず、こんなふうに、妖精を丸ごと黒く染めてしまうなんて。
これは、異常事態だ。黒いタマゴの中身がどこかで生きていて、妖精たちに影響をおよぼしていると考えるのが、ふつうだね」
「そ、そいつをどうにかしないと、状況は悪化してくのかっ!? 黒くなった妖精はもう、助からねぇのかっ!? あ、綾まで……」
ヨウちゃんの涙声が、あたしの胃をしめつける。
あたしまで……。
「すまない、葉児君。これ以上のことは、わたしにもよくわからないんだよ。
きみのお父さんが、イギリスから妖精のタマゴを持ち込んだ日からずっと、わたしは、浅山でそのようすを見てきた。だがね、しょせん、わたしは、しがない植物園の管理人でしかない。
フェアリー・ドクターだったリズとはちがって、わたしには、なんの能力もないのだよ。
リズが生きていれば、さぞかし力になってくれただろうが……」
「……リズ?」
「……リース・ウィリアムスの愛称。オレのとうさんの名前」
はじめて知った、ヨウちゃんのお父さんの名前。
ヨウちゃんちの書斎にならんでいる本の作者名。英語だから、一度も読んだことがなかったけど。リース・ウィリアムスって書いてあったんだ……。
「しかし、せめてもと、こんなものを持ってきた」
鵤さんは、ポケットからなにかをとりだして、ヨウちゃんの右手のひらにのせた。
横からのぞきこんだら、小ビン。中で虹色の液体がかがやいている。虹色なのは、フェアリー・ドクターの魔法がかかっているあかし。
「……これは?」
「大昔に、リズからもらったものでね。『マロウの液剤』だときいた。これで肌をおおえば、妖精のつかう悪い魔力から、身を守れる」
フェアリー・ドクターのつくった薬は、妖精の傷を治す。
妖精から受けた人間の傷をも治す。
「つまり……影響をおよぼしているヤツの正体が、黒いタマゴの中にいたモノならば、いちおうは相手も妖精なんだから、この薬が効くってわけか……」
ヨウちゃんは、ぎゅっとビンをにぎり込んだ。
なって数ヶ月の見習いみたいなもんだけど、あたしもヨウちゃんも、フェアリー・ドクター。
とくにヨウちゃんは、いつもお父さんの書斎にこもって、フェアリー・ドクターの勉強をしてる。
「綾、腕出して」
「うん」
ヨウちゃんが、あたしのコートのそでをたくしあげた。
う……。我ながら、気持ち悪……。
あたしの左手の手首からひじまで。墨を腕にこぼしたみたいに、真っ黒。
ヨウちゃんが一瞬、あたしの腕から目をそむける。だけどすぐに、奥歯をかみしめて、あたしの腕と向かい合った。
ビンのコルクを抜いて、少し小ビンをかたむける。虹色の液体が、腕の上につっと、こぼれる。
「……つめた……」
太い人差し指が、あたしの腕を軽くなでる。
マロウの液剤がうすくのびて、腕全体が虹色のベールに包まれていく。
虹色のかがやきの中に、下の黒が溶け込んで消えていく。
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ
三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』
――それは、ちょっと変わった不思議なお店。
おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。
ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。
お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。
そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。
彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎
いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―
くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」
クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。
「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」
誰も宝君を、覚えていない。
そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『小栗判官』をご存知ですか?
説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。
『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。
主人公は小学六年生――。
*エブリスタにも投稿しています。
*小学生にも理解できる表現を目指しています。
*話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる