ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
219 / 646
4 永遠の子どもの国からの脱出

56

しおりを挟む

 あたしは、ポシェットからキッズケータイを取り出した。登録してきた、ヨウちゃんちの電話番号。ピッとボタンを押して、電話をかける。


 プルルルル……プルルルル……。


 耳の奥に鳴りひびく呼び出し音。

 三回目で、「……はい。中条です」って、低い声が出た。


 うわっ! 本人っ!


 いつもはたいてい、「は~い、中条でございます」って、お母さんの明るい声がするんだけど。


「……あの……ヨウちゃん? あたし、綾……」


 ドキン、ドキン、心臓が鳴る。

 本当、電話って慣れない。だって、今、電話の向こうでヨウちゃんがどんな顔してるのか、わかんない。


「あのね……今ね、まだ……ベイランドなの……。きょうはもう、会えないと思う……。たぶん、このまま夜になっちゃう……」


「……誠と、いるのか……?」


 ヨウちゃんの声、かすれてる。


「……ううん。誠が、見つからないの……」


 あたしの目から涙がこぼれて、ケータイをぬらした。


「誠は……つらいときに、あたしのそばにいてくれた。あたしを……元気にしてくれた。だからあたし、誠に『ありがとう』って伝えたい……。誠が、『もう行ってもいい』って言ってくれなきゃ、あたし、ヨウちゃんのところに行けないよ~……」


「ちょっと待て。綾、今、どういう状況なんだよ?」


「あ……あのね……」


 ズッと鼻をすすって、あたしは、ヨウちゃんに今朝からのことを話した。

 誠が「海賊ごっこ」をはじめたこと。ベイランドのどこかに隠れていること。どんなにがんばっても、見つからないこと。


「……わかった。オレもそこに行く」


「で、でも……ヨウちゃんまで巻き込んじゃ……」


「オレのことでもあるだろ? 綾が、誠に『行け』って言われなきゃ、誠からはなれられないんだったら、オレだってこまるんだよ」


 ドクっと心臓が打ちつける。


「だから、オレが誠を説得してやる。三十分待ってろ」


 ヨウちゃんが切った電話を、あたし、両手でぎゅっとにぎりしめた。






しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

処理中です...