ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 伝えたいこと

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 ごわごわの葉っぱを踏んで、一歩。ヒースの茂みへ、足を踏み出してみる。

 二歩、三歩。

 踏み出すたびに、自分の体が、数ヶ月前にもどっていくみたい。



「……綾」


 低い声に呼ばれて、ふり返った。

 登山道のところで、木の幹に片手をついて、ヨウちゃんがあたしを見ている。

 サラサラと風になびく、琥珀色の前髪。

 目が合うと、琥珀色の澄んだ瞳が、ふるっと震えた。

 幹にかけたこぶしをかため、ヨウちゃんはうつむいた。



「……綾、オレさ……。最近びょーき」


「……えっ!?  う、ウソっ!?  なんで急にっ!?  あ、ヨウちゃんが話したかったのって、そのことっ?」



「……ああ」


「ヤダ、だいじょうぶっ? どこか痛いのっ!? 」


「いてぇよ……。痛くて痛くて、もうたえらんない。だからお願い。綾……治して」


 そ、そんな……。


 あたしのこめかみを、冷たい汗が伝っていく。


「で、でも、あたし、お医者さんでもないのにっ! あ、フェアリー・ドクターの薬、つくればいいのっ!? 」


「そんなの、いらない」


 だけど、じゃあ……どうやって……。


 ヨウちゃんが、一歩、二歩、ヒースの葉を踏んでくる。


 右腕がのびてきた。

 右手の指先が、あたしの左手の甲にふれる。黒いアザごと、横から包み込むみたいにつかまれる。

 
 そのまま、ヨウちゃんはあたしの手の甲を、自分の胸に引き寄せた。

 黒いウインドブレーカーの胸の真ん中に、手のひら、ぴったりくっついちゃう。



「……ヨウちゃん?」


 ヒースの茂みに、風が吹いた。

 眉間の力を抜いて、ヨウちゃん、目を閉じた。


 ふれた胸の奥から、心臓の音が、トクン、トクンと伝わってくる。


「……こうしてくれればいい。おまえが……受け入れてくれれば……オレの胸の痛みは消える」


「……え……?」



「綾……好きだ……」



 ストンと言葉が、あたしの胸に落ちていった。



「あ、あれ? ……もしかして、病気って、恋の病……?」

 下からのぞきこんだら、うつむいてるヨウちゃんのほっぺた真っ赤っ赤。

 あたしのほっぺたまで、カーって熱くなる。


「や、やだぁ! 心配してソンしちゃったよっ! そんなのホントの病気じゃないじゃん 」


 だけど、ヨウちゃんの心臓の音、さっきより大きくなって、駆け足してるみたい。



「……綾……オレのこと、受け入れてくれる……?」


 震えてる、か細い声。

 なんだか、涙がこみあげてきて、あたしぐっと口をひきしめた。


「……うんっ! 受け入れる! 受け入れるよっ!! 」


 両腕を開いて、ガバっとヨウちゃんの胸に抱きつく。


「あたしもヨウちゃんが好きっ!」


 引っついちゃったら、なんかもう、体全体が心臓になっちゃったみたい。ドクンドクン、胸も手も足も波打っちゃって。ヨウちゃんの心臓の音と自分の心臓の音、二重奏。

 ほっぺた熱すぎて、湯気出てそうだし。


 はずかしすぎるから、顔を隠したくて。なお、顔をうずめてぎゅってしたら、ヨウちゃんの体、ビクって震えた。


「……綾……」


 硬い両腕がそろそろ、あたしの背中にまわっていく。

 あたしよりもずっと太くて、筋張った腕。なのに、プルプル震えていて、産まれたての小鹿の足みたい。


「……ありがとう」


 まるで、ふれたらくずれるガラス細工でもさわるみたいに、ヨウちゃんはそっと、あたしの背中を、自分の両腕で包み込んだ。



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