ナイショの妖精さん

くまの広珠

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「ま、誠。カワイイ~っ!! 」


「え? ホントっ!?  あは。和泉がオレのこと、ほめてくれた!」


 後ろ頭に手を置いて、誠のほっぺたピンク色。

 誠は、緑のとんがり帽子に、緑の服を着てる。革のベルトを腰にしめて、さしているのはオモチャの短剣。緑のズボンは短くて、太ももが見えてる。で、革のショートブーツ。

 誠のあどけないところとか、やんちゃなところが、ちゃんと衣装で強調されてる。


「和泉だって、カワイイじゃん~。つ~か、青い目のお人形さんみたい~」


「ヤダぁ~。誠ってば~」


 キャピキャピ笑いあってたら、横からヨウちゃんににらまれた。


 わっ!?  な、なにっ!?

 まだ、お芝居の役になりきるのは、早いってばっ!


「っていうか、葉児ぃ、なんでそんなに、キスシーンにこだわるわけ~? どうせ、ただのフリだろ~? そんな、目くじらたてることもないじゃん~」


 誠の声が、よく通っちゃったもんだから。

 ザワッと、クラス中の子たちが、あたしたちを見た。


「えっ!?  な、なに? サプライズで、ピーターパンとウエンディのキスシーンを入れる予定だったのっ!? 」

「ウソ! そんなのアリ?」


 女子たち、お互いに顔を見合わせて、そわそわ。


「いいじゃん、やれよ!」

「キスすれば、六年の劇の歴史に名をのこせるぜ」


 男子たち、無責任。


「いや。でも、みんな、よく考えてみろ。勝手にそんなことして、おとながだまってると思うかっ?」


 ヨウちゃん、ひとりで炎を背負って、ぐっとこぶしをかためた。


「職員室で、大問題になるかもな。それに、劇を見た下級生が親に伝えたら、過保護なPTAたちが大騒ぎするかもしれない。だいたいな、観客席には、幼稚園からあがりたての、一年だって、まじってるんだ。こういった過激シーンがだな。小さな子どもたちに、どんな悪影響をあたえるか、考えてみることも必要じゃねぇのかっ!? 」


 ……なにこれ? 弁論大会?


「……ふ~ん」


 大岩がつぶやいた。


「わかった、わかった。キスシーンはナシね~」

「はいはい。ナシナシ」


 なんだろ。クラスに生あたたかい空気がただよってる。


「誠は? 了解?」

「い~よ~。りょうか~い」


 ヨウちゃん、ふっと胸をなでおろしたけど。

 リンちゃんは、あたしをジロっ。


「和泉さん。サプライズって書いたのに、バラしたんだ? しかも、中条君に言うとか。サイテー」


 ぐ……。


 でもさ。こんなふうにクラスの流れをかえられるのって、ヨウちゃんだけだよ。


「はい。六年生、体育館に移動っ!」


 担任の大河原先生が、手をパンパンはたいて教室に入ってきた。


「大道具、背景ぜんぶ運ぶのわすれんな~。役持ってるヤツは、服よごすなよ~」


 ガヤガヤと廊下に動き出すクラスメイトたち。

 その中から頭ひとつぶんとびだした、黒いロングコートの背中を、あたしはぎゅっとつかまえた。


「……ヨウちゃん、ありがとう……。また、助けてもらっちゃった……」


 大きな海賊帽子がゆれて、ヨウちゃんがふり返る。


「いや……べつに」


 ぼそっとつぶやいて、ヨウちゃん、だまり込んだ。

 視線の先、あたしのかかとの高いサンダル。


「……綾。あとで話がある……」


 ……え?


 顔をあげると、宝石みたいに澄んだ瞳が、少しゆれながらあたしを見ていた。


「……劇が終わったら、うちに来て」


「……うん」


 歩いていくクラスメイトたちの中。

 あたしたちの時間だけ、止まっちゃったみたい。

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