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2 ネバーランドへようこそ
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しおりを挟む「ま、誠。カワイイ~っ!! 」
「え? ホントっ!? あは。和泉がオレのこと、ほめてくれた!」
後ろ頭に手を置いて、誠のほっぺたピンク色。
誠は、緑のとんがり帽子に、緑の服を着てる。革のベルトを腰にしめて、さしているのはオモチャの短剣。緑のズボンは短くて、太ももが見えてる。で、革のショートブーツ。
誠のあどけないところとか、やんちゃなところが、ちゃんと衣装で強調されてる。
「和泉だって、カワイイじゃん~。つ~か、青い目のお人形さんみたい~」
「ヤダぁ~。誠ってば~」
キャピキャピ笑いあってたら、横からヨウちゃんににらまれた。
わっ!? な、なにっ!?
まだ、お芝居の役になりきるのは、早いってばっ!
「っていうか、葉児ぃ、なんでそんなに、キスシーンにこだわるわけ~? どうせ、ただのフリだろ~? そんな、目くじらたてることもないじゃん~」
誠の声が、よく通っちゃったもんだから。
ザワッと、クラス中の子たちが、あたしたちを見た。
「えっ!? な、なに? サプライズで、ピーターパンとウエンディのキスシーンを入れる予定だったのっ!? 」
「ウソ! そんなのアリ?」
女子たち、お互いに顔を見合わせて、そわそわ。
「いいじゃん、やれよ!」
「キスすれば、六年の劇の歴史に名をのこせるぜ」
男子たち、無責任。
「いや。でも、みんな、よく考えてみろ。勝手にそんなことして、おとながだまってると思うかっ?」
ヨウちゃん、ひとりで炎を背負って、ぐっとこぶしをかためた。
「職員室で、大問題になるかもな。それに、劇を見た下級生が親に伝えたら、過保護なPTAたちが大騒ぎするかもしれない。だいたいな、観客席には、幼稚園からあがりたての、一年だって、まじってるんだ。こういった過激シーンがだな。小さな子どもたちに、どんな悪影響をあたえるか、考えてみることも必要じゃねぇのかっ!? 」
……なにこれ? 弁論大会?
「……ふ~ん」
大岩がつぶやいた。
「わかった、わかった。キスシーンはナシね~」
「はいはい。ナシナシ」
なんだろ。クラスに生あたたかい空気がただよってる。
「誠は? 了解?」
「い~よ~。りょうか~い」
ヨウちゃん、ふっと胸をなでおろしたけど。
リンちゃんは、あたしをジロっ。
「和泉さん。サプライズって書いたのに、バラしたんだ? しかも、中条君に言うとか。サイテー」
ぐ……。
でもさ。こんなふうにクラスの流れをかえられるのって、ヨウちゃんだけだよ。
「はい。六年生、体育館に移動っ!」
担任の大河原先生が、手をパンパンはたいて教室に入ってきた。
「大道具、背景ぜんぶ運ぶのわすれんな~。役持ってるヤツは、服よごすなよ~」
ガヤガヤと廊下に動き出すクラスメイトたち。
その中から頭ひとつぶんとびだした、黒いロングコートの背中を、あたしはぎゅっとつかまえた。
「……ヨウちゃん、ありがとう……。また、助けてもらっちゃった……」
大きな海賊帽子がゆれて、ヨウちゃんがふり返る。
「いや……べつに」
ぼそっとつぶやいて、ヨウちゃん、だまり込んだ。
視線の先、あたしのかかとの高いサンダル。
「……綾。あとで話がある……」
……え?
顔をあげると、宝石みたいに澄んだ瞳が、少しゆれながらあたしを見ていた。
「……劇が終わったら、うちに来て」
「……うん」
歩いていくクラスメイトたちの中。
あたしたちの時間だけ、止まっちゃったみたい。
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