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2 ネバーランドへようこそ
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しおりを挟む好きな人と、好きな人の家で、ふたりっきりで、お芝居の練習。
なんて。ふつうだったら、夢のような展開。
たとえばふたりで、お芝居のセリフを、あま~い言葉でささやきあったり。
「うふふふ」「あははは」って、笑いあったりしちゃってさ。
だけど、あたしにとっては……地獄……。
「綾っ! 何度まちがえるんだっ! ここは、ウエンディがピーターパンに告白する、一番大事なシーンなんだぞっ!」
くっ……。スパルタ教師め……。
これのどこが「あたしに来てほしくて、うずうずしてた」人なわけっ!?
ヨウちゃんは、お父さんのつくえに、背中でもたれて立って。
あたしは、つくえに横づけした、ゆりイスに座って。
ガリガリ、脚本を丸暗記中。
両想いだったら、また、ちがってくるんだろうけど。
この人が、あたしを特訓してくれるのは、どう考えてもただの義務感。
あたしっていう「お荷物」をどうにかしなきゃ、あしたの劇は成功しないからね。
いつの間にか、窓の外は真っ暗。
窓ガラスには、蛍光灯に照らされる書斎の本だなが映り込んじゃってる。
「ヨウちゃん、お腹すいた……。もうすぐ六時だから、あたし、家に帰らなきゃ……」
「で。家に帰って、ひとりで、ぜんぶ覚えきれるのか?」
う。ギクっ!
「だ……だけど、ママが心配するし~」
「わかった。じゃあ、綾、きょうはオレんち泊まれ」
「え、ええ~っ!? 」
ちょっと、これ! ただの義務感にしては行きすぎなんじゃ!
「で……でも、勝手にそんなことしっちゃって、有香ちゃんがきいたら怒るよっ !?」
「なんでここで、永井が出てくんだよ。役者が、セリフ覚えるんだったら、永井だってクラスの一員としてよろこぶはずだろ?」
「そ……それはそうだけど……」
「セリフ覚え切れなかったら、今晩は徹夜だからなっ!」
ぐ……。
やっぱり、義務感か。
い~んだ。わかってる。
ヨウちゃんはなんだかんだ言ったって、マジメながんばり屋さんなんだよね。
カノジョじゃなくったって、友だちとして、あたしのことを心配してくれてるんだ。
「……わかった。あたし、一晩でセリフぜんぶ覚えるよ」
「よし。よく言った!」
あ……ヨウちゃん、ふんわり笑顔。
けっきょく、この笑顔ひとつで、頭ん中、お花畑になっちゃうあたしが、一番アホっ子なんだと思う。
「かあさんに話してくる」って、書斎を出て行って数分後。
帰ってきたヨウちゃんは、大皿いっぱいのサンドイッチを抱えてた。
「夕飯持って来た。あと、おまえんちには、うちの親から『泊まる』って電話して、オッケーもらったから」
「あ、ありがとう」
さっそくサンドイッチに手をのばしたら。ヨウちゃん、ギロリ。
「アホ。手ぇとめて、食うな。なんのためのサンドイッチだよ。これは、練習の合間につまむんだ!」
「お、鬼ぃっ!」
「はい。三十一ページの二行目から、も一回」
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