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1 好きな人の、好きな人
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しおりを挟む有香ちゃんは、黒いスーツに、黒い膝丈のタイトスカートをはいてる。髪も後ろでひとつにまとめて、まるで社会人。
え……? なにこれ……?
「今ね、ちょっと話し込んでてね。どうする、有香ちゃん? 綾ちゃんにも話、きいてもらう?」
お母さんはにっこり笑顔で、ヨウちゃんのとなりの席にもどっていく。
「い、いえっ! あ、あたし帰りますっ! 大事なお話中にお邪魔しちゃって、ごめんなさいっ!」
あたしがぺっこり頭をさげたら。
「あ、綾ちゃんっ!? 」
おでこを青白くして、有香ちゃんが立ちあがった。
「葉児君から話きいてない? わたしね、今度ここのうちで……」
葉児君っ!?
有香ちゃんが、ヨウちゃんのこと、「葉児君」って言ったっ!
「アホか、綾」
とつぜん、頭をチョップされた。
見たら、ヨウちゃん、あたしの目の前に立ちあがってる。
「おまえはオレと、浅山に行くんだろ?」
いつもとおんなじ、しらっと冷めた目。
なのにあたしの目頭は、どんどん熱くなって、涙がこみあげてくる。
「ご、ごめんなさいっ! しつれいしました!」
あたしは、ヨウちゃんの家からとびだした。
なんでっ!?
なんで、有香ちゃんがヨウちゃんちにいるのっ!?
頭ん中、ぐるぐる。
それに、それに、有香ちゃん、ヨウちゃんのこと「葉児君」って呼んだっ!
いつもは有香ちゃん、「中条」って、ヨウちゃんのこと、にらみつけるのにっ!
どっちが地面で、どっちが空かわかんない。
なにアレっ!? お見合いっ!?
ま、ま、ま、まさか! ふ、ふ、ふ、ふたりとも、こ、こ、こ、婚約っ!?
「アホだろ、おまえっ! 勝手に帰んなっ!! 」
後ろから、右手をつかまれた。
「ぎゃっ!? 」
坂のとちゅうでふり向いたら、ヨウちゃんがこめかみに汗をうかべて、右手に虹色の小ビンをにぎりしめてた。
「だ、だって! あたしがいちゃ、めいわくでしょっ?」
「めいわくだったら、自分から家に呼んだりしねぇだろ。おまえ、なに、テンパってんだよ。浅山はこっちだ。行くぞっ!」
「……で、でも……」
ぐいぐいあたしの手をにぎって、ヨウちゃんはきびすを返す。
う~……。
やっぱり、ズルイ~……。
いつもとかわらない黒いウインドブレーカー。
いつもとかわらない大きな手のひら。
あったかくって、ここちよくって、さっきの有香ちゃんのことが、頭の中で消去されてっちゃう。
「……綾。きのうは……楽しかったか……?」
「……え?」
見あげたら、ヨウちゃんは歩きながら、自分の足元を見つめてた。
「誠と……デートしたんだろ……?」
ヨウちゃんの眉間に、ぎゅっとシワが寄る。
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