ナイショの妖精さん

くまの広珠

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 テレビの中で、ミュージシャンが熱唱してる。


 この人には、歌の才能がある……。


 チャンネルをかえたら、芸人が、観客を爆笑させてる。


 この人には、お笑いの才能がある……。


 ソファーの横を見たら、置き捨てられてる子育てママのファッション誌。開かれたまんまのページで、うちのママがほほえんでる。


 ママには、モデルの才能がある……。


 ソファーにもたれて。テレビのザッピングをしているパパにだって、ホームページのプログラマーっていう才能がある。


 みんな、スゴイ……。


 ちゃんと才能を持っていて、おとなになってから、それをぞんぶんに発揮してる。


 あたし……ずっと、このままなのかな……?

 なんにもないまま。アホっ子のまんまで、おとなになっていくのかな……?


 誠とわかれて、家に帰ってきてから、ずっと体が重たい。

 ソファーの上で体育座りして、お腹にクッションを抱えていたら、家の電話が鳴った。


「あ、はいはい」


 お皿を洗っていたママがキッチンから出てきて、ダイニングの子機を取りあげる。

 一言、二言会話して。ママがあたしを見た。


「綾、電話よ。葉児君から」


「……えっ!? 」


 抱えていたクッションが、ボトって、カーペットに落ちちゃう。


 だって今まで、ヨウちゃんからあたしに、電話がかかってきたことなんて、あったっけ?


 ヨウちゃんのお母さんから、かかってきたことはあるし。自分からかけたこともあるんだけど。


 あたしは不便な小学生。スマホもケータイも持ってない。だから、あたしへの連絡は、ぜんぶ、家電にかかってくる。

 子機をにぎりしめて、パタパタ、二階の自分の部屋にかけこんで。

 ベッドの上に正座して。「保留」のボタンを解除。


「あの……もしもし? ……ヨウちゃん……?」


 おそるおそる出てみたら。


「……綾か?」


 ヨウちゃんの声が、すっごい耳元からきこえてきた。


「……帰ってたのか……」


 声をきいただけなのに、あたしの心臓バックバク。

 いつもならききとれないくらいの、かすれ声。なのに、すぐそばからきこえてくるんだもん。


 耳元で、ささやかれているみたい……。


「あした、ヒマか? 妖精を呼び出しに、浅山に行かないか……?」


 あたしは、ぎゅっと子機を耳に押しあてた。

「電話だから」ってだけじゃない。ヨウちゃん、ほんの少し、いつもとちがう。

 いつもだったら、「行くぞ」って断定されるのに。


 きゅんって、なってたぶん、反応が遅れた。ヨウちゃんの声からトゲが出た。


「……おまえ、わすれてたろ?『妖精に会いたい』って言ったのは、おまえだぞ? 妖精を呼び出す香をつくるのに、オレがどれだけ手間どったと思ってる?」


 あ、いつものヨウちゃんだ!


「ありがとう、行くっ!」


「……そうか。じゃ、あした、オレんち来て。……待ってる」


 ズキュ~ンって、心臓を打ちぬかれた。

 だって、いつもよりも弱気な、かすれ声。


「待ってる」「待ってる」「待ってる」……。


 ヨウちゃんって、ズルイ。

 どうせ、なんにも考えてないくせに、一瞬で、あたしの胸を破壊する。


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