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1 好きな人の、好きな人
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しおりを挟む「……きみは……その、ドンマイ」
あたしのつくえの前に立って、陶芸家の先生が言った。
う……。
そんな一言が、逆に胸につきささる。
窓の外には、うす水色の絵の具を溶いてのばしたような空。
ここは、花田市コミュニティセンターの建物内にある、会議室みたいな広い部屋。
土曜日の午後。
長づくえの前に座るのは、花田近郊の町からあつまってきた小学生たち。それぞれ自分のマグカップを、それぞれの手からひねりだしてる。
あたしの目の前のつくえには、ナゾの茶色い粘土のかたまり。
これ、ちょっと表現しにくいんだけど。しいていうなら、えっと……人に踏みつぶされた、ナメクジのオバケ?
となりの誠は、もう、りっぱなマグカップをつくりあげている。
ヘラで表面をデコボコにして、波のもようや、雲のもようまでつけていて。
これから窯で焼いてもらうんだけど。仕上がったら、おいしくミルクを飲めるんだろうな。
指導してくれているのは、陶芸家のおじいさん先生。白髪は肩にかかる長髪。灰色の甚平を着ていて。いかにも、芸術家っぽい見た目の人。
そのおじいさんが、誠の横に来て、「うまい」とか「才能ある」とか褒めちぎってたんだけど。あたしの作品を見たとたん、「ドンマイ」だって。
うわ~ん。
教えてもらったとおりにやったはずなのに、なんであたしの作品だけ、こんなナゾな物体に……?
「才能あるかも」とか思いあがってた自分、消しゴムで消しちゃいたい。
もう、イヤになってめちゃくちゃに、粘土をひねりあげていたら。
「あ。いいじゃん、それ!」
誠がにへって笑って、身をのりだしてきた。
「和泉の、キリンみたい。ほら、ここに目と耳つければ!」
ヘラをつかって、ちょいちょいって、あたしの粘土に目と耳をつける。
「……あ。ホントだ。ナメクジから、キリンになった……」
「あはは。さっきまでのは、ナメクジだったの~? いいよこれ、キリンの首を取っ手にして飲むんだよ。斬新マグカップ~」
にぱ~って全開の笑顔を見たら、「ドンマイ」って言われたことが、頭からとんでいった。
誠って不思議。人を元気にするパワーを持ってる。
外で会うときの誠は、学校にいるときより、断然オシャレ。
黒いぴっちりのセーターの腰に、赤いチェックのネルシャツをむすんで。
ダボ目のワークパンツの折り返したすそは、オレンジと黒のチェック柄。
誠って、カラフルな色が似合うんだよね……。
色あせた紺のフードつきトレーナーじゃなくって、学校でもこんなかっこうをしてたら、女子たちの目だってかわってくるだろうに。
ちなみにあたしは、学校に行くときとおんなじ。ピンクのコートの下に、赤いトールネックのセーター。
「よ~し。ふたりとも、完成~っ! つくったコップは、このまま置いて帰ればいいんだよね? あとで、窯で焼いて、家に送ってくれるって。もちろん、タダでっ! タダは重要だよ? タダはっ!」
誠があんまり大きな声で言うから、まわりの小学生までクスリ。
でもその反応、うちのクラスメイトたちとはちがってて。ほっぺを赤くして、うっとり誠を見てる。
ヘンなの。誠がモテてる。
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