ナイショの妖精さん

くまの広珠

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 誠も、ほっぺたを真っ赤にして「えええ~っ!? 」。


「リン。ピーターパンに、お姫様抱っこするシーンなんて、あったっけ?」


 ワニ役の真央ちゃんが、あたしの味方になってくれる。


「いいの、あったの! わたしの書いた脚本に、文句つける気っ? はい。ピーターパン、さっさとウエンディを持ちあげるっ!」


 うわぁ! これってぜったい、リンちゃんのたくらみだよっ!


 あたしが、ヨウちゃんちのお店に押しかけたりしてウザイから。あたしを誠とくっつけちゃって、ヨウちゃんから引きはなそうって魂胆。


 だけどなによ。あたしのこと引きはなしたって、ヨウちゃんは有香ちゃんが……。


 チラって顔をあげたら、琥珀色の目に、じろってにらまれた。


 ええ~っ!?  なんで~っ!?


 ヨウちゃんは窓ぎわのイスに腰かけて、ひとりでおとなしく脚本を読んでたんだけど。


 むっちゃ不機嫌っ!!


「も~、しょ~がないな~。和泉ぃ、さっさと終わらせちゃお。えっと、お姫さま抱っこって、どうやるんだろ? 和泉、ちょっといい……?」


 誠の腕が、そろそろ、あたしの背中にまわってく。

 
 で。あたしを横抱きしようとして。


「……お……重……」


 細い腕がプルプル震えて、ふたりいっしょにぐしゃって、尻もちついちゃった。


「ご……ごめん~」

「う~。なんかあたしも、ごめん~」


 あたし、これでもクラスで一番、体重は軽いんだけどな。

 誠も、手も足も細い上に、あたしとあんまり身長の差がないから、不利なんだよ。

 有香ちゃんたち衣装係も、ダンボールに空の色を塗っていた大道具も、こっちを見て、アハハって笑ってる。


 さ、さらしもの……?



「……ふ~ん。誠って、そんなこともできねぇんだ?」


 ゆかにへたりこんだあたしたちの上に、黒い影ができた。

 見あげたら、ヨウちゃんが腕を組んで、仁王立ち。



「なんだよ、葉児ぃ。フック船長には関係ないだろ~?」


 誠、ほっぺたぷっくり。



「綾、ちょっとこっち来い」


「……ほぇ?」


 なんか怖いから、あんまり近寄りたくないんだけど。

 でも、ヨウちゃんだし、しょうがないかな?って、立ちあがったら。


「オレの右前に立て」


 なんなのよ、もう。


「で、顔こっちで、横向く」


「……ね~。なにやらせんの~?」


 内側に顔を向けたあたしの左わきの下に、ヨウちゃんの右腕がすっと入った。


――え?


 背中を通って、右わきの下へ、右腕がまわってく。

 両ひざの下に、ヨウちゃんの左腕が通った。

 立ってる力が抜けたと思ったら、体が軽くなって、足が宙にうかんでる。


「う、うわぁっ!? 」


 あたしの体、あおむけに丸くなって、ひざをまげてラッコみたい。しかも宙ぶらりん。



「わかるか、誠? こうやってやるんだよ」


 ヨウちゃん、ニヤって笑った。




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