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1 好きな人の、好きな人
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しおりを挟む誠も、ほっぺたを真っ赤にして「えええ~っ!? 」。
「リン。ピーターパンに、お姫様抱っこするシーンなんて、あったっけ?」
ワニ役の真央ちゃんが、あたしの味方になってくれる。
「いいの、あったの! わたしの書いた脚本に、文句つける気っ? はい。ピーターパン、さっさとウエンディを持ちあげるっ!」
うわぁ! これってぜったい、リンちゃんのたくらみだよっ!
あたしが、ヨウちゃんちのお店に押しかけたりしてウザイから。あたしを誠とくっつけちゃって、ヨウちゃんから引きはなそうって魂胆。
だけどなによ。あたしのこと引きはなしたって、ヨウちゃんは有香ちゃんが……。
チラって顔をあげたら、琥珀色の目に、じろってにらまれた。
ええ~っ!? なんで~っ!?
ヨウちゃんは窓ぎわのイスに腰かけて、ひとりでおとなしく脚本を読んでたんだけど。
むっちゃ不機嫌っ!!
「も~、しょ~がないな~。和泉ぃ、さっさと終わらせちゃお。えっと、お姫さま抱っこって、どうやるんだろ? 和泉、ちょっといい……?」
誠の腕が、そろそろ、あたしの背中にまわってく。
で。あたしを横抱きしようとして。
「……お……重……」
細い腕がプルプル震えて、ふたりいっしょにぐしゃって、尻もちついちゃった。
「ご……ごめん~」
「う~。なんかあたしも、ごめん~」
あたし、これでもクラスで一番、体重は軽いんだけどな。
誠も、手も足も細い上に、あたしとあんまり身長の差がないから、不利なんだよ。
有香ちゃんたち衣装係も、ダンボールに空の色を塗っていた大道具も、こっちを見て、アハハって笑ってる。
さ、さらしもの……?
「……ふ~ん。誠って、そんなこともできねぇんだ?」
ゆかにへたりこんだあたしたちの上に、黒い影ができた。
見あげたら、ヨウちゃんが腕を組んで、仁王立ち。
「なんだよ、葉児ぃ。フック船長には関係ないだろ~?」
誠、ほっぺたぷっくり。
「綾、ちょっとこっち来い」
「……ほぇ?」
なんか怖いから、あんまり近寄りたくないんだけど。
でも、ヨウちゃんだし、しょうがないかな?って、立ちあがったら。
「オレの右前に立て」
なんなのよ、もう。
「で、顔こっちで、横向く」
「……ね~。なにやらせんの~?」
内側に顔を向けたあたしの左わきの下に、ヨウちゃんの右腕がすっと入った。
――え?
背中を通って、右わきの下へ、右腕がまわってく。
両ひざの下に、ヨウちゃんの左腕が通った。
立ってる力が抜けたと思ったら、体が軽くなって、足が宙にうかんでる。
「う、うわぁっ!? 」
あたしの体、あおむけに丸くなって、ひざをまげてラッコみたい。しかも宙ぶらりん。
「わかるか、誠? こうやってやるんだよ」
ヨウちゃん、ニヤって笑った。
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