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1 好きな人の、好きな人
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しおりを挟む「……ねぇ、ヨウちゃん。なんか怒ってる?」
ランドセルをカタカタとゆらしながら、あたしは高台へ続く坂道をのぼってく。
「べつに。怒ってねぇよ」
あたしの五メートル先を行く、ヨウちゃんの黒いウインドブレーカーと、片肩にかけたランドセル。
放課後。あたしはヨウちゃんちに寄り道予定。
なのに、五時間目に劇の役が決まってから、ヨウちゃん、目も合わせてくれない。
「……綾。おまえさ。前、誠に告白されたんだったよな」
グレーのランドセルがカタっとゆれて、ヨウちゃんが肩越しにあたしを見た。
「……へ? あ……うん。ことわっちゃったけど……」
なんでそんなこと、今さら言い出すんだろ?
卒業キャンプに行く前の話だよ?
「……あいかわらず、誠と仲いいんだな」
そうかな?
でも、それは誠が「友だち」って言ってくれたから。
「誠ってさ、なんかあたしと感覚が似てて、遊ぶと楽しいんだ」
えへへって笑ったら、「……ふ~ん」ってヨウちゃん、冷めた声。また、手をジーンズの後ろポケットにつっこんで、スタスタ坂をのぼっていく。
なによ。興味ないなら、わざわざ、きく必要ないじゃん。
「……告白なら、あたしだって、ヨウちゃんにしたんだけどな……」
きこえないように、口の中でつぶやいてみる。
しかも二回も。
一度目はギッタギタにフラれちゃって。二度目なんか、スルー。
それでもめげずに、友だち関係を続けてるあたしだって、われながら、誠に負けず、スゴイと思う。
高台をのぼると、白い横板壁の家が見えてきた。屋根の上には風見鶏。
絵本の世界に迷い込んだみたいな、このメルヘンなおうちが、ヨウちゃんち。
夏の終わりごろ、ヨウちゃんのお母さんが、自宅カフェ「つむじ風」をオープンさせた。
なのに、ヨウちゃんてば、「家におしかけられると、めんどうだから」って理由で、クラスメイトたちに、お店のことを教えてない。
あたしだけ知っちゃったのは、ヨウちゃんにとっては事故みたいなものだろうけど。
お店のことは、あたしとヨウちゃんだけのナイショ。
生垣を越えて、ハーブのお庭を歩いていく。イングリッシュガーデンみたいに、いろんな種類の葉っぱが植わってる。もう十一月だから、花は終わっちゃった。
モスグリーンの葉っぱたちを見たら、ヨウちゃんのほっぺた、ちょっとゆるんだ。
少し歩いて立ちどまったり。しゃがみこんで、枯れた葉をつんだり。
あ……大事にしてるんだ……。
秋口から、ここのハーブはヨウちゃんが育ててる。
「ぷぷ。ガーデニング男子~」
「……なんだよ。いいだろ、べつに」
ほっぺたを赤く染めて、ヨウちゃん、ぷいってそっぽ向いた。
う……。カワイイ……。
教室でふんぞり返っているのは、ただカッコつけて、クールきどってるだけ。
ヨウちゃんって、照れると、すぐに顔に出ちゃう。
玄関のドアを開けると、自宅カフェ「つむじ風」の、「営業中」ってプレートが、プラプラゆれた。
ヨーロッパの田舎の家みたいな内装。ふいごの置いてある薪ストーブに、壁からぶらさがるドライハーブ。
中から、女子たちのはしゃぎ声がきこえてきた。
わ……。ヤな予感……。
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