ナイショの妖精さん

くまの広珠

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「なぁ。葉児ようじは、どっちかっていうと、フック船長じゃねぇ?」


 廊下側の真央まおちゃんの席のとなりで、大岩おおいわが声をあげた。

 大岩は名前のとおり、筋肉質な大きな体が、岩みたいにごっつごつ。


「だって、ピーターパンって、『永遠の子ども』なんだろ? 葉児じゃデカすぎて、すでに、おとなってカンジじゃん」


 あ。それはたしかに。

 そしたら、今度は男子たちが「そうだ」とか「じゃあ、おまえやれ」とか騒ぎ出した。


「ちょっと、みんな静かにして。――それで、中条君の意見は?」


 有香ちゃんが、メガネの表面を光らせて、じろっとヨウちゃんを見る。

 有香ちゃんって、ヨウちゃんが嫌いなんだよね。前に、あたしがヨウちゃんと仲良くなるのをとめたぐらい。


「まぁ、イメージ的に、ピーターパンはまことだな」


 ヨウちゃん、さくっと、めんどうなことを横流し。


「はあ~っ!? 」


 黒板の真ん前の席から、すっとんきょな声があがった。

 見たら、おサルみたいに耳が横に広がった男子が、ちびっこい体でふり返ってた。


「お、オレぇ? オレがやるの~っ!? 」


 大きな二重の目をクリクリさせて、誠、大きな口を横にがば~。


「おお。たしかに、誠のがピーターパンって感じするな!」


 大岩がぽんっと手を打った。


「誠、やれよ。ピーターパン」


「ええ~っ!?  オレなんかにでっきるかな~っ!? 」


 って言いながらも、誠ってば、へらっへら。

 誠って、本当にわかりやすい。今も、「もちあげられてうれしいです」って、顔に書いてある。


「ちょっと待ってよ、男子たちっ! 多数決で決めようよ!」


 リンちゃんがわって入った。


「イヤもう、誠でいいだろ? 本人やる気あんだから。ちなみにオレはやる気ない」


 ヨウちゃん、バッサリ。

 男子たちがパチパチ拍手して。誠、「えへへ~」って頭をかいて。それで、あっさり決まっちゃった。



「次に、ウエンディ役やりたい人?」


 有香ちゃんが黒板の前で、また声をあげたんだけど。

 急に教室の中は、シーン。

 さっきまで、「やりたい」って騒いでた女子たちが、全員うつむいて、つくえの上を見つめてる。


 ……あ。これじゃ、誠がかわいそう……。


 女子たちってば、ピーターパンがヨウちゃんじゃなくなったからって、テンションが下がっちゃったんだ。

 たしかに誠は、いつもおちゃらけてて、教室じゃ、おバカなチビっ子あつかいだけど。

 いいとこもいっぱいあるんだよ?


和泉いずみぃ~」


 前の席から、誠ののんびりボイスがきこえてきて、あたし、ハッと顔をあげた。

 誠が、イスの背もたれに左腕でもたれて、あたしをふり返ってる。



「和泉ぃ、ウエンディやって」


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