ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 決戦は卒業キャンプで

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 自分で言っておきながら、おかしいと思う。

「帰れない」って泣いている人たちに、「帰れ」ってせっつくなんてさ。


 でも、たぶん、この人たち、本当は帰れるんだよ。


 ただ、ヨウちゃんみたいに、自分の心を自分でがんじがらめにして。はじめから「帰れない」って決めてかかってるだけで。


「たしかに、あなたたちの体はもう、この世にはないかもしれない。だけど、心は自由でしょ? 浅山にいなくてもいい。あなたたちの心は、どこにでも行けるんだよ」


 黒い影が身じろいだ気がした。


 気づいたら、さっきまで影の頭から出ていた、黒いモヤが消えている。


「帰んなきゃ、ダメ。あなたたちの大切な人も、あなたたちの帰りを待っている」


 あたしは、知ってる。

 二度とにぎれないと思っていた手を、にぎったときのいとおしさ。

 大切な人が、そばにいることの、あたたかさ。


 兵士たちの黒い輪郭に、ザザザと横からノイズが入った。

 輪郭がぼやけ出す。

 頭や肩が、砂のようにサラサラとくずれ出す。

 まるで、浜にのこされた砂の人型。

 乾いた砂を、風がくずして、とばしてく。


 黒い砂になった兵士たちの霊が、風に舞って散っていくのを、あたしはずっと見続けた。





 パアっ!


 砲弾倉庫の中のかがやきが増した。


「ヨウちゃんっ!」


 きびすを返して、あたしはまた、砲弾倉庫の入り口へ走りだした。

 ハアハア息をついて、中をのぞきこむ。


 倉庫の中で、ヨウちゃんが虹色の小ビンをかまえていた。

 レンガ造りのゆかの上に、一個、二個、転がっているのはきっと、呪い返しでつかってしまった、空のビン。

 ヨウちゃんは、肩で息をつきながら、まだ半分入ったビンをにぎりしめてる。

 一歩。

 その足が、観音開きのとびらへ近寄った。

 二歩。三歩。


 とびらの中は静まり返っている。

 虹色の光に照らされて、タマゴが見えた。

 黒い殻から、完全に光沢が消えてる。まるでカラカラに乾燥した、ウエハースみたい。


 パキ、パキ、パキ、パキ。


 殻にヒビが入っていく。くもの巣もようの細かいヒビ。


「チチチチチチ!」


 あたしの足元から妖精の声がした。


「ヒメっ!」


 羽に虹色の針を刺したまま、ヒメがふらふらと砲弾倉庫の中へ入っていく。

 細い足で、よたよたとヨウちゃんの前を歩きすぎ、タマゴへ近寄る。


「な、何する気だっ!? 」


 ヨウちゃんがさけんだ。

 だけどヒメは、細い両手で、ただ、ぎゅっとタマゴを抱きしめた。


「ヒメ……もしかして、自分のタマゴを、ヨウちゃんに取りあげられるって思ってる……?」


 タマゴは、最初から、禍々しい黒いタマゴだったわけじゃない。

 ホントは白くてキレイな、ヒメのタマゴ。


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