ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 決戦は卒業キャンプで

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 黒い影をつくる木々が消えた。

 左側の視界が開けて、風にゆれるヒースの茂みが広がる。


「……綾。あれを見ろ……」


 ヨウちゃんが立ちどまった。

 砲弾倉庫跡が黒い四角い影になって、茂みの中にうまってる。

 その手前に、銀色の光があつまってた。

 空の星が、いっせいに落ちてきて、そこにふりつもったみたい。

 ヒースの中に踏み込んでいったら、銀色の光が羽の形に見えてきた。

 トンボの羽を持った小さな子たち。十数人。手を取り合って、くるりくるりと回ってる。


「……妖精のダンスだ」


 キラキラ、チラチラ、妖精が笑う。一ヶ所にあつまって、輪になって、踊りまわる。

 チチとヒメの姿も見えた。ふたりで手を高くあげて、数回転。ヨルガオみたいに、闇に開く、チチとヒメのドレスのすそ。


「……ねぇ、ヨウちゃん。あたしたちが、黒いタマゴを壊そうとしてること、妖精たちに気づかれたら……」


「……すげぇ、怒るだろうな……」


 だよね……。


 横で、ヨウちゃんはペンライトのあかりを消した。


「綾は、妖精たちを見はっててくれ。あいつらが砲弾倉庫の中に入ろうとしたら、これをつかって、とめろ」


 目の前に、小ビンがさしだされる。

 中に、虹色の細かい針のようなものが、たくさんつまってる。


「なにこれ……?」


「ゴース。和名だと、ハリエニシダの針だ。妖精の羽は、ゴースの針が刺さると飛べなくなる」


 う……。物騒……。

 できれば、つかいたくないけど……。


 右手をポケットにつっこんで、ヨウちゃんは中から新たな小ビンを取り出した。


「オレは、こっちをつかって、呪い返ししてくる」


「……の、呪い返し?」


 って、さらに物騒っ!


「アグリモニーの煎じ薬。これをつかえば、黒いタマゴが放ってくる邪視を、そのまま、あのタマゴに返してやることができる。あいつを、自分の呪いで自滅させてやる」


「く、黒い~……。なんか腹黒いよ、ヨウちゃん~っ!」


「しょうがねぇだろ。それが、あのタマゴと向かい合うってことなんだから」


 現実が胃を冷たくする。

 行く先を見つめる琥珀色の瞳はするどく、硬い。

 あたしの右手から、ヨウちゃんの左手がはなれた。


「待って。ひとりで行くの?」


「ひとりじゃねぇよ。外には、ちゃんとおまえがいるだろ?」


 ぽんっと、頭にヨウちゃんの左手がのっかった。


 わ……キュンっ!


 だけど、手がはなれたときにはもう、背の高い背中は、前かがみになって、砲弾倉庫の一番奥の入り口へ歩き出していた。


 お願い。ネトルさん、ヤロウさん。ヨウちゃんを守って……。


 あたしの呼びかけに応えるように、ヨウちゃんのジーンズの後ろポケットに、ぽうっと虹色の光がともる。


 く~、心臓痛い。




 ヨウちゃんと別れて、あたしは砲弾倉庫のレンガの壁づたいに、妖精たちのほうへ近づいていった。


「チンチン、チチチチ」

「キキキン、チチチ」


 耳をなでる、心地いい金属音。声をあげて、妖精たちが笑ってる。


 妖精って、本当にダンスが好きなんだ……。


 もしかしたら、いつも、夜がふけるたびに、ここで踊っているのかな?

 幼児体型の小さな子。赤いくるくるの髪で、体に緑の葉っぱを巻きつけた男の子。

 ホタルブクロのお花を帽子にしてかぶった、白いお花のドレスの女の子。

 寄り目で鼻はつんとしていて、くちびるもとがってて。みんな似たような顔つきで。どの子もあたしと同じか、幼いくらい。


 バンっ!


 背中から強い光があがって、ふり返った。

 一番奥の砲弾倉庫の入り口から、まぶしい虹色の光がこぼれてる。


 呪い返しがはじまったんだっ!

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