ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 決戦は卒業キャンプで

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 ドキン、ドキン。心臓が鳴る。


 ヨウちゃんが、あたしの右手をにぎってる。

 ぎゅっと強くて、大きな硬い手。

 奥からじんじん伝わってくる、熱いぬくもり。


「オレら、一番なんで、先に出ます」


 ヨウちゃん、あたしの手を引いて、レクリエーションホールの入り口から、外に走っていく。


「おーい、中条! そんなにあせんな。これから懐中電灯くばって……それから……」


 おとなは、なんでも型にはめたがるから。先生はまだ、手順をいっぱい決めていたみたいなのに。

 ヨウちゃん、ガン無視。


「中条君、なんで和泉さんの手なんかにぎっちゃってんの~?」


 ホールの入り口で、リンちゃんが悲鳴をあげてる。




「ね、ねぇ。ヨウちゃん。せっかくリンちゃんたちと仲直りできたのに、また機嫌悪くされちゃうよ?」


 街灯がぽつん、ぽつんとともる、暗いキャンプ場。

 あちこちで三角の影をつくるのは、みんなが泊まるバンガローの屋根。

 やっと、ゆっくりになったヨウちゃんの歩調。

 
 芝生を踏みしめながら、自分の手を引く先を見たら、ヨウちゃんの口元、ふんわり笑ってた。


 わ……キューン。


 胸苦しくて、酸欠になりそう。


「いいんだよ。オレ、昼間、『そばにいるのは、自分が必要としてる人間だけでいい』って言ったろ?」


「……え? あ、うん。それは、そう言ってたけど……。だけどさ、こんな……」


「綾っ! おまえ、意味わかれよっ!! 」


「ほぇ」ってアホ毛をゆらして首をかしげたら、ヨウちゃんの顔、耳まで真っ赤っ赤。


 ……あれ? なんで……?



「……~もういい」


 マスクみたいに、右手で顔をおおって。ヨウちゃんの足が遅くなる。


「このまま、砲弾倉庫跡に行って、黒いタマゴを破壊する。でも、オレはビビリでヘタレだから、おまえのサシェくらいじゃ、どうにもならない。綾……おまえもいっしょに来てくれるか?」


「う、うんっ! 行くっ!」



「……そうか」


 赤くなった目を何度もまばたきして。ヨウちゃんはポケットからペンライトを取り出して、足元を照らした。

 キャンプ場を抜けて、登山道へ。


「べつに……綾を、つきはなしたかったわけじゃない。けど……ほかにどうしたらいいか、わからなくなってた。誠とつきあえば、綾は黒いタマゴと向き合わなくてもすむ。妖精になって、りんぷんをつかうこともない。オレといるより……幸せだって思った……」


 どうしよう……。胸、熱い。


 あたしの手をにぎるヨウちゃんの左手、力がこもって痛いくらい。


「ねぇ、ヨウちゃん。あたし今、へアベルつかってないよ。そんなに、しゃべっちゃっていいの……?」


「かあさんに……傷つけないやり方をしろって言われたから。そしたら、本音を話す以外にないって気づいた。オレもこれ以上、綾の傷つく顔、見たくない……」


 祈るみたいな、かすれ声。


 空を見あげたら、満天の星。

 あたしの羽のりんぷんみたい。



「ヨウちゃん……おとなの言うことって、重いね。ぜんぶがぜんぶ、こどもよりおとなのほうが正しいわけじゃないけどさ。おとなのほうがたくさん生きてるから、あたしたちの知らない考え方を、教えてくれたりするんだね……」


 あたしもママから、たくさん教わってた。


 勇気を出して、人に想いを伝えること。

 人に「こうしてほしい」じゃなくて、自分の「こうしたい」って気持ちで、動くこと。


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