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4 告白の後先
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しおりを挟むあたしは、ヨウちゃんの平たい背中に手をまわして、後ろ頭にふれてみた。
くしゃっとやわらかい、琥珀色の細い髪。
「怖いよね……キツイよね……」
小さい子でも平気なオバケ屋敷でさえ、怖いのにね。
ガサっと、ヨウちゃんの左手から、紙袋が落ちた。自由になった両腕が、あたしの腰にぎゅうっと抱きついてくる。
そでがあがって、パーカのわきのしたの生地が引っぱられる。
ポケットから、虹色の花がこぼれ落ちた。
「……あっ!」
声を出して、「しっぱいした!」って、気づいたときは遅かった。
ヨウちゃんはもう、自分の足元を見おろしていた。
琥珀色の目が、時がとまったように、ヘアベルを見ている。
「……ヨウ……ちゃん」
ヘアベルは、地面に熱を吸いとられるかのように、虹色の光をなくしていく。
「――ふ~ん。そういうこと」
長い右腕が動いて、ヘアベルを拾いあげた。
「綾。おまえ、人を自白させたのか。……いい趣味だな」
うつむいた前髪の下で、ヨウちゃん、片口だけあげて笑ってる。
「じ、じはく……?」
「口を割らせるって意味だよ。どうせ、かあさんもグルなんだろ?」
ほおが、石膏みたいに硬い。
「ち、ちがう! ヨウちゃんのお母さんは、ヘアベルのことなんか知らないっ! これは、あたしが勝手に、ヨウちゃんのノートを読んで……」
言いかけて、あたしはバッと、自分の口を両手でふさいだ。
チラッと、冷たい視線があたしを見おろした。
「ふ~ん。やっぱ、おまえ、勝手に書斎に入ったのか。人を自白させる方法を調べるために、留守をねらって、人んちの書斎に忍び込む。やり方、すげぇ卑劣だな」
「ち……ちが……」
「ちがうかどうか、白状させてやろうか? 少しは人の気持ち、わかったほうが、おまえのためにもいいだろ?」
ぞくっとした。
手の中のヘアベルを、ヨウちゃんが、あたしの胸につきつけてくる。
一歩、足を後ろに引いたら、ひざに力が入らなくて、ガクッとなった。
「とにかく、もう帰れ。オレは二度とおまえと口をききたくないっ!」
地面に落ちた紙袋を拾いあげて、ヨウちゃん、家に向かって歩き出す。
寒い。
ヨウちゃんが氷みたい。
カフェの玄関が開いていて、ヨウちゃんのお母さんが立っていた。ドアに背中でもたれて、ヨウちゃんをにらんでいる。
「なに? かあさんもさっさと入って仕事すれば? 客、待ってんじゃねぇの?」
横を通りすぎようとしたヨウちゃんのほおを、パンっと、お母さんの手のひらが、はたいた。
――え?
目を見開いて、お母さんを見おろすヨウちゃん。
息子を見あげるお母さんの目に、涙が浮かんでる。
「あなたの許可をとらずに、綾ちゃんを書斎に入れたことはあやまるわ。でも、今の綾ちゃんに対する態度はなにっ!? もし、それがあなたの本心でも、人にあんな言い方するもんじゃない。本心じゃないのなら、人を傷つけない別のやり方を、考え直しなさいっ!! 」
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