ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 告白の後先

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 あたしの手首を硬くつかんだまま、ヨウちゃんはハァとうつむいた。


「……知らねぇよ、そんな夢。だいたいモヤとか、目とか、どこにあるんだよ」


 涙でぐちゃぐちゃの目をこすったら、ヨウちゃんの足元からモヤは消えていた。


「……え? で、でもっ!」


 壁でズルズル背中をずりながら、ヨウちゃんが立ちあがる。


「気にすんな。オレは、ただ寝てただけだ。ほら、教室にもどるぞ」


「ウソっ! 寝てるだけだったら、どうしてそんなに、つらそうなのっ!?  お願い、ヨウちゃん! あたしには隠さないでっ! だって、あたしは知ってるんだよっ!?  ヨウちゃんがフェアリー・ドクターだってことも。お父さんのことも。黒いタマゴのこともっ! あたし、リンちゃんたちといっしょに、されたくないっ!! 」


「……知ってるからこそ、教えたくないことだってあるだろ……?」


「……え?」


 あたしが顔をあげると、ヨウちゃんは顔をそむけて、手首をはなした。


「ウソだよ。ホントになんともねぇって。寝てただけ。おまえ、ひとりで勝手にもりあがるな」


 背を向けて、ドアのほうへ歩きだす。


「……待ってよ~」


 涙がぼろぼろと、ほおを伝う。


 ヨウちゃん、ぜったい言わないつもりなんだ。

 なにがあっても、自分だけで解決しようとしてるんだっ!


「だって、だって~。あたし、心配なんだもん~。ヨウちゃんのことが好きだから、そんなヨウちゃん、見ちゃったら、心配で、心配でしょうがないんだもん~」


 顔をあげて、わんわん泣きじゃくるあたしを、ヨウちゃんは立ちどまって、見おろしている。


「……綾……」


 眉をしかめて、ヨウちゃんがうつむいた。


「なんだよ。……それって……告白……?」


 ハッとして、ほおをぬぐう。


 あたし……言っちゃった……?

 覚悟なんて、まだぜんぜんできてないのに……。



「……おまえにだけは、言われたくなかったよ」


 ズンと、心臓に矢が刺さった。


「……なんで? なんで、そんなこと言うのっ!?  あたしが、お荷物だから? あたしは勝手に妖精になったりして、いっつもヨウちゃんに迷惑をかけてばっかりだから? だから、好きになられたらやっかいなのっ!? 」


「……自分でよく、わかってんじゃねぇか」


 ザラザラの声。


「お荷物に決まってんだろ? アホっ子で、ひとりじゃなんもできなくて。いつもオレに尻ぬぐいばっかさせて。そんなヤツを、どうしてオレが、好きになるんだよ?」


「……ひどい……」


 キツくて、きびしいヨウちゃん。

 だけど、きびしいヨウちゃんの下には、やさしいヨウちゃんがいる気がしていた。

 やさしいヨウちゃんが、あたしに笑ってくれるから、あたしはきびしいことを言われても、傷つかないでいられた。


「ヨウちゃんやっぱり、上からだ。あたしのことを見くだしてるんだ。誠はちゃんと、あたしを、対等に見てくれてるもん。好きだって言ってくれたもんっ!」


「……え?」


 琥珀色の目が横にぶれる。


「……いつ?」


「日曜。ふたりで買い物行ったとき」


 ヨウちゃんはうつむいて、歯をかみしめた。


「なら……オレなんかに告白してる場合じゃねぇだろ? 誠とつきあえよ」


「な、なんでよっ!?  なんでそんなこと、ヨウちゃんに言われなきゃなんないのよっ!? 」


「誠は……いいヤツだぞ」


「そんなこと、知ってるよっ!」


 あたしはパッとかけだした。

 ヨウちゃんの横をすり抜けて、屋上のドアを抜けて。

 階段を三階へかけくだった。



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