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2 かごの中の人面蝶
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しおりを挟む「綾っ!? 」
ヨウちゃんの声が裏返る。
扉の中からわきあがる黒いモヤ。
視線を感じる。
黒い大蛇のようなモヤの中で、黒いタマゴが鎮座して、こちらを見ている。
ぐるっと、視線が動いた。
ヨウちゃんの足が、ざっと一歩、後ずさった。
タマゴの中身が……ヨウちゃんを見てる……。
脳に直接ひびく、オオオオっていう低いとどろき。その中に、猛獣みたいな息づかいを感じる。
タマゴの中に目があった。
黒いタマゴの中に、大きな人間の目がひとつ。
ラグビーボールを横に倒したような楕円形。その中に、丸くて黒い目の玉。
ヨウちゃんの腰がふ~ってさがった。ぺたん。倉庫の前に尻もちをつく。
ぐるるるる……。
とびらの中でうずまく黒蛇たち。
……なんで……?
身構える矛先が、ヨウちゃんにかわってる。
黒いタマゴを取ろうとしたのは誠なのに。
もたげた鎌首を一度、後ろにさげて。次の瞬間、いっせいに襲いかかる――。
あたしは、両手で観音開きの金具をつかんだ。
腕に全体重をかけて、蛇が飛び出す前に、バンっと、扉を閉めきる。
「ドンっ!」と蛇が扉の内側に激突した音。
なにあれ? なにあれ? なにあれ?
頭の中、ぐるんぐるん。
心臓がバクバク鳴りっぱなしで、自分が今、なにをしているんだかも、よくわかんない。
「誠っ! しっかりしてっ!! 」
あたしは、誠の右腕を自分の肩の上にかついで、ふらふら倉庫の外へ逃げ出した。
タマゴの中に、なにかいたっ!
中から、ヨウちゃんを襲おうとしたっ !!
なんで?
重い誠の肩をずるずると抱えて、ヒースの茂みまで引きずって。
なんとか、茂みに誠をおろす。
あたしは、ハアハア、砲弾倉庫の中をふり返った。
ヨウちゃんはまだ、血の気の引いたほおでへたり込んでいる。
だけどその奥。部屋の中はしんとしていた。
あの黒いタマゴは、観音開きの扉を、自力で開けられないのかもしれない。
へいき……。追ってこない……。
あたし、ハ~と、こめかみにふきでた汗をぬぐった。
ヒースの茂みはさんさんと太陽の日を受けていて、その上を秋風がそよいでいく。
チチやヒメは、どこに遊びに行ったんだか、出てこない。
あの子たち、なんでこんな、気持ち悪いタマゴを、大事そうにしまってるの……?
「……あれぇ? 人面蝶じゃん~」
ハッとして、自分の足元を見おろした。
あたしに引きずり出されたまんまのあおむけで、誠がヒースの茂みに倒れこんでいる。
「ヘンなの~? 人面蝶が人間になって、オレのことを助けに来た~」
眠そうな目で、誠がぼんやり笑う。
その腕や胸には、スタジャンの上から、うっすらとした黒いモヤが巻きついていた。
黒い蛇が這いずったあと。
なにこれ、気持ち悪い~っ !!
パンパン手ではらっても、モヤは散ってくれない。
むしろ、ぎゅ~って、誠の体に食い込んでいくみたい。
「あれ~? おかしいな~。頭の中が、ぼ~っとしてく~。オレ、さっきまで、お母さんにあげる誕生日プレゼントをさがしてたのに~……」
「……誠……」
誠はたぶん、前にここに来て、あの部屋に、黒いタマゴがあるのを知っていたんだと思う。
お母さんにアクセサリーをあげたいのに、お金がないって言ってたから。黒い宝石みたいに見えるタマゴを、プレゼントにしようって……。
「誠っ!! 誠、しっかりしてっ!」
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