ナイショの妖精さん

くまの広珠

文字の大きさ
上 下
106 / 646
2 かごの中の人面蝶

18

しおりを挟む

「綾っ!? 」


 ヨウちゃんの声が裏返る。

 扉の中からわきあがる黒いモヤ。

 視線を感じる。

 黒い大蛇のようなモヤの中で、黒いタマゴが鎮座して、こちらを見ている。

 ぐるっと、視線が動いた。

 ヨウちゃんの足が、ざっと一歩、後ずさった。


 タマゴの中身が……ヨウちゃんを見てる……。


 脳に直接ひびく、オオオオっていう低いとどろき。その中に、猛獣みたいな息づかいを感じる。

 タマゴの中に目があった。

 黒いタマゴの中に、大きな人間の目がひとつ。

 ラグビーボールを横に倒したような楕円形。その中に、丸くて黒い目の玉。

 ヨウちゃんの腰がふ~ってさがった。ぺたん。倉庫の前に尻もちをつく。


 ぐるるるる……。


 とびらの中でうずまく黒蛇たち。


 ……なんで……?


 身構える矛先が、ヨウちゃんにかわってる。

 黒いタマゴを取ろうとしたのは誠なのに。

 もたげた鎌首を一度、後ろにさげて。次の瞬間、いっせいに襲いかかる――。


 あたしは、両手で観音開きの金具をつかんだ。

 腕に全体重をかけて、蛇が飛び出す前に、バンっと、扉を閉めきる。

「ドンっ!」と蛇が扉の内側に激突した音。


 なにあれ? なにあれ? なにあれ?


 頭の中、ぐるんぐるん。

 心臓がバクバク鳴りっぱなしで、自分が今、なにをしているんだかも、よくわかんない。


「誠っ! しっかりしてっ!! 」


 あたしは、誠の右腕を自分の肩の上にかついで、ふらふら倉庫の外へ逃げ出した。



 タマゴの中に、なにかいたっ!

 中から、ヨウちゃんを襲おうとしたっ !!


 なんで?


 重い誠の肩をずるずると抱えて、ヒースの茂みまで引きずって。

 なんとか、茂みに誠をおろす。

 あたしは、ハアハア、砲弾倉庫の中をふり返った。

 ヨウちゃんはまだ、血の気の引いたほおでへたり込んでいる。

 だけどその奥。部屋の中はしんとしていた。

 あの黒いタマゴは、観音開きの扉を、自力で開けられないのかもしれない。


 へいき……。追ってこない……。


 あたし、ハ~と、こめかみにふきでた汗をぬぐった。

 ヒースの茂みはさんさんと太陽の日を受けていて、その上を秋風がそよいでいく。

 チチやヒメは、どこに遊びに行ったんだか、出てこない。


 あの子たち、なんでこんな、気持ち悪いタマゴを、大事そうにしまってるの……?


「……あれぇ? 人面蝶じゃん~」


 ハッとして、自分の足元を見おろした。

 あたしに引きずり出されたまんまのあおむけで、誠がヒースの茂みに倒れこんでいる。


「ヘンなの~? 人面蝶が人間になって、オレのことを助けに来た~」


 眠そうな目で、誠がぼんやり笑う。

 その腕や胸には、スタジャンの上から、うっすらとした黒いモヤが巻きついていた。

 黒い蛇が這いずったあと。


 なにこれ、気持ち悪い~っ !!


 パンパン手ではらっても、モヤは散ってくれない。

 むしろ、ぎゅ~って、誠の体に食い込んでいくみたい。


「あれ~? おかしいな~。頭の中が、ぼ~っとしてく~。オレ、さっきまで、お母さんにあげる誕生日プレゼントをさがしてたのに~……」


「……誠……」


 誠はたぶん、前にここに来て、あの部屋に、黒いタマゴがあるのを知っていたんだと思う。

 お母さんにアクセサリーをあげたいのに、お金がないって言ってたから。黒い宝石みたいに見えるタマゴを、プレゼントにしようって……。


「誠っ!!  誠、しっかりしてっ!」

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―

くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」 クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。 「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」 誰も宝君を、覚えていない。 そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 『小栗判官』をご存知ですか? 説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。 『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。 主人公は小学六年生――。 *エブリスタにも投稿しています。 *小学生にも理解できる表現を目指しています。 *話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

処理中です...