ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 かごの中の人面蝶

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「……」


 書斎で。お父さんのつくえの前に座って。ほおづえをついて。

 ヨウちゃんがあたしを見すえてる。

 ななめにかまえた、琥珀色の目。冷凍庫の中みたいに、キンっキン。


「……」


 つくえの向かいのゆりイスに座って。

 チラッとヨウちゃんを見あげて。

 あたしはすぐにまた、視線をひざの上のにぎりこぶしにもどす。




 今朝。

 一日ぶりに学校に行ったら、クラスのみんなはいつもどおりだった。

 誠は教室の一番前の席から、一瞬だけあたしを見て。山田との会話にもどっちゃった。

 ヨウちゃんも、いつもどおり。あいかわらず女子たちにかこまれていたから、あたしが割り込むすき間ナシ。

 そんなわけで。放課後に、おそるおそる、書斎に寄ったんだけど……。




「――で?」


 やっと、口を開いたと思ったら、ヨウちゃんがしゃべったのは、この一言だけ。


「……えっと……。だから……。きのうは、ごめんなさい。あたし、ちょっとだけ、息抜きしたくなっちゃって……」

「……ふ~ん。『ちょっと』って、アレがか?」

「だ、だってっ! まさか、誠につかまるとは思わなかったんだもんっ!」

「……それで。オレが行かなかったら、おまえ、どうする気だったんだ?」

「えっ!?  そ、それは……」


 考えてなかったなんて、言えない……。


「おまえのお母さん、だいぶ心配してたな~。あれから病院行ったんだろ? 医者はなんて?」

「……つかれてるだけだって」

「まさか、医者も、患者が妖精になってたとは思わないよな~」


 グサグサ胸につきささってくる、ツララみたいな嫌味の数々。

 くっと、うつむいてたら、ヨウちゃんはハァ~って息をはき出した。


「綾さ。人間のままでいるって、決めたんじゃなかったのか?」

「う……うん……」

「じゃあ、なんで、かんたんに妖精になったりするんだよっ!?  オレ、前にも言ったよな? 妖精なんて、虫みたいに弱い存在だって! 運よくもどってこれたから、よかったものの。鳥とかネコに見つかって、食われてたって、おかしくなかったんだぞっ!! 」

「……ご、ごめんなさい……」


 わかってる。


 ヨウちゃんがただのイヤがらせで、嫌味を言ってるわけじゃないんだって。


「あの。ヨウちゃん、これ、お返しします……」


 あたしは立ちあがって、お代官様に年貢をおさめるみたいに、ヒソップの小ビンをつくえにのせた。


「助けに来てくれて、ありがとうございました……」


 ほおづえからあごをあげて、ヨウちゃんがヒソップのビンを見つめる。

 ふっと息をはきだして、ヨウちゃんはビンを受け取った。


「……次は、ねぇからな」


 目元がふわっと、やわらかい。


 わ……キュン。


 とたんに、「怖い」って気持ちが、海のかなたにとんでいく。


「あ、そうだっ!! ヨウちゃん、あたしね! 浅山で、へんなの見たのっ!」

「……は? へんなの?」


「うん。黒いタマゴっ!」




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