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2 かごの中の人面蝶
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しおりを挟む気づかれたっ!?
もうここで「逃がして」って、言っちゃったほうがいい?
「和泉って、カワイイよな~。『アホっ子、アホっ子』って、みんな言うけどさ~。でも……和泉って、葉児とつきあってんのかな~?」
誠はかごから目をはなして、勉強づくえのイスに、ギって腰かけた。
ええっ!? なにそれっ!
誠、今、あたしのこと「カワイイ」って言ったっ!?
それにあたし、ヨウちゃんとは、教室じゃほとんど話もしてないのに、どうして「つきあってる」なんて思えるのっ !?
あ~、もう! 声、出しちゃいたいっ !!
誠は、つくえの上に、ぼ~っとうつぶせになって、上の空。
「葉児はいいなぁ~。女子に好かれまくりだもん。本命できたら、かんたんに落としちゃえるんだろな~。オレも、あの十分の一でいいから、カッコよければな~……」
……意外。
誠でも、そんなこと考えるんだ……。
「誠。お母さん、あしたも早出だから、先に横になるわね。あんた、宿題終わったの?」
ふすまが開いて、となりの部屋からお母さんが話しかけてくる。
さっきまで、となりの部屋を占領していたこたつづくえは、はじに移動されていて、 畳に、お母さんのふとんが敷いてあった。
「う~ん。宿題は、あとでやる~」
「そう……? おやすみ」
ふすまが閉まると、誠はつくえの上でため息をついた。
「人面蝶~。もうすぐお母さんの誕生日なんだよね~。うちのお母さん、な~んにもオシャレしないから、なんか飾るもんあげたいんだけど。オレって、お金、ないんだよなぁ~」
つぶやきながら、誠のまぶた、だんだん閉じられていく。
つかれてるのかも。
だって、買い物から帰ってきて、夕飯つくるのを手伝ってたし。お皿洗って、お風呂張って。お風呂から出たら、バスタブまで洗ってたし。
「キレイな宝石、どっかの道ばたに落ちてればいいのになぁ~」
目を閉じたと思ったら、誠はすうすうと寝息をたてはじめた。
部屋の中は、真っ暗。
さっきまでつくえの前で寝ていた誠は、十分前にむにゃむにゃ起きてきて、パチンと電気を消して、自分のふとんにもぐっていった。
ママ、パパ……どうしてるんだろ……?
あたしは、誠が入れてくれたハンドタオルにくるまって、眠れない。
あたしの人間の本体は、妖精のあたしが帰るまで、自分の部屋のベッドで眠っているはず。
ってことは、夕飯も食べないで、ずっと寝っぱなし。
起こそうとしたって起きないよ。
……心配するよね……?
病院に連れて行かれちゃうかな……?
お医者さん、なんて言うんだろ……?
――おまえの友だちがどっかに行こうが、おまえがクラスでひとりぼっちになろうが、オレがずっと、おまえといてやるよ――
数週間前に言われた言葉が、頭にぼんやりよみがえってきた。
「妖精の世界に行きたい」って、ダダをこねたあたしを、ヨウちゃんは「行くな」ってとめた。
「人間の世界には、オレがいるだろ?」って。
なにその、オレサマなセリフ。
あのときのヨウちゃんが、どういう気持ちであんなことをさけんだのか、あたし、いまだにわかんない。
本人、しらっとしていて、なかったみたいになってるし。
だけど、思い出すたびに、胸がしめつけられるように苦しくなる。
あたし……こんなとこで、なにやってんだろ……?
「人間として生きる」って、約束したのに。
お遊び半分で妖精になったりして。
それでつかまって、もどれなくなるなんて、自業自得――。
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