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1 あたしの背中の羽のこと
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しおりを挟む「塾? 行けば?」
真央ちゃんにあっさり言われた。
休み時間でざわつく、六年生の教室。
ここ、花田市立小学校は田舎にあるから、一学年に一クラスずつしかない。
真央ちゃんは廊下寄りの席に座って、体育着の短パンからのぞかせた、ダイコンみたいな太ももを、ぐいっと組んでいる。
「だって、塾くらい、うちだって行ってるし。有香だって、週三で行ってるよな?」
そしたら、真央ちゃんのつくえのわきに座った、有香ちゃんもうなずいた。
「うん。あと、ピアノとバレエね」
バレエをやってるからかな? 有香ちゃんの背すじは、ピンとのびていて、体育着のシャツから出ている手足は、細くて長い。
ふたつにわけてむすんで、胸の前でたらしている髪は、バレエのときは、おだんごにまとめるんだって。今はかけている黒縁メガネも、コンタクトレンズにしてるって、きいた。
「てか。六年で習い事してないのって、もう、綾と誠くらいじゃないの?」
真央ちゃんが、天然パーマのボブ頭をふわってゆらして、黒板のほうに顔を向けた。
教卓の真ん前の席で、誠が山田と手をはたいて笑ってる。
おサルみたいに、横に広がった大きな耳。体育着から出ている手足はひょろひょろで、夏の日焼けがまだ完全に抜けきれてない。
誠はいつも、平気で宿題をわすれてくる。
それで先生に怒られても、ヘラヘラ笑っていて、ちっともきいてない。
たぶん誠は、サッカーボールひとつあれば、毎日ゴキゲンでいられるんだと思う。
う……。
さすがに、あのチビッ子といっしょにされるのは、くやしいかも……。
真央ちゃんの前の席で、あたしがスカートのすそを、にぎりしめたとき。
「次、体育っ! 全員、体育館に移動~っ!! 」
って、背の高い男子が、ズカズカと教室に入ってきた。
おとなみたいに低い声。
体育着を着ている手足はすらっと長くて、筋がうきでていて。肩幅は広くて。
態度だって、先生みたいにふんぞり返っちゃって、すんごいエラそう。
「おっけぇ~、葉児ぃ」
誠がクリクリ目で、にぱっと笑った。
このふたりが同じ年に生まれたなんて、あたし、どうしても信じらんない。
「中条くぅ~ん。体育委員ごくろうさま~」
「ねぇねぇ、体育館でなにやるの~?」
リンちゃんも青森さんも、黄色い声をあげて、教室の前へあつまっていく。
「おとといと同じで、バスケの練習。体育館行ったら、先生が来るまで、チームごとにパス練習してろって」
だから、なんでそう、上から目線で言うんだろ?
染めてもないのに、琥珀色のさらっさらの髪。
嫌味みたいにキレイな、琥珀色の目。
なんでも亡くなったお父さんがイギリス人だったとかで。そのお父さんが、えっらいイケメンだったタナボタで、本人までイケメンに育っちゃって。
鼻筋が通っていて。あごはしゅっとひきしまってて。ほおは石膏みたいに白くって。
見てくれだけは、ムカつくぐらいイイから、とにかく女子たちがあつまってくる。
……チームごとに練習かぁ。
みんなが動き出した教室で。
あたしも、ぼんやり、真央ちゃんの前のイスから立ちあがった。
そういえばバスケ、あたし、ヨウちゃんと同じチームなんだよなぁ~。
だけどあたし、学校ではほとんど、ヨウちゃんと話さない。
ヨウちゃんがいつも、女子たちにかこまれてるからって、いうのもあるけど。
なんだか、ふたりでいるときとは、別人みたいで……。
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