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5 真夜中のダンスパーティー
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しおりを挟む「い、行くなっ!! 」
ヨウちゃんがふらふら、こっちに近づいてくる。
「えっ!? だ、ダメっ! 今、来ちゃあぶないっ!」
ピュンっと風が、ヨウちゃんの右肩をかすめた。スパッとTシャツのそでが切れる。
ヨウちゃんは、ハッと、左手で右肩を押さえた。
「チチチチ」
見ると、少女の妖精は、口を三日月形にあげて笑ってる。
心臓がイヤな音で鳴った。
この子……もしかして、ヨウちゃんを近寄れなくするために、スビードをあげたっ!?
どくん。どくん。どくん。どくん。
あたしの心臓の音が、夜の闇を支配する。
あたし、このまま妖精の世界に行くんだ……。
「よ、ヨウちゃんっ!」
髪の毛を舞い散らす風の外から、「綾ぁっ!! 」ってきこえてきた。
「たしかに、おまえの言うとおりかもしれないっ! 人間の世界なんて、ごちゃごちゃめんどくさいことばっかりなのかもしれないっ!
学校なんて、まわりとくらべられることしかなくて。同じスピードでできることを強要されて! ちょっとでも、遅かったり、人と同じようにできないと、それだけであ~だ、こ~だ指摘されて、コケにされてっ!
こんな場所にとどまるより、新しい場所に行ったほうが、楽しくてラクに暮らせるのかもしれないっ! ……けどっ! ……でも……」
ヨウちゃんが身を丸めて、突進してきた。
バチバチ、バチバチ。ほおに腕に肩に足に、一瞬にしてたくさんの切り傷がつく。
「や、ヤダっ! やめてっ!!」
なのに、ヨウちゃん。ぎゅっと顔をしかめて、まだつっこんでくる。
手がのびて来た。大きな硬くて太い腕。
右手がしっかりつかんでいるのは、小ビンに入った虹色の液体。
……薬……できたんだ……。
「……オレがいるじゃねぇか」
眉をしかめて。ほっぺたに傷をつくって。琥珀色の瞳が、勝気に笑った。
「……え?」
「人間の世界には、オレがいるだろ? おまえの友だちがどっかに行こうが、おまえがクラスでひとりぼっちになろうが、オレがずっと、おまえといてやるよ。オレだけはぜったいに、綾を見放さない。だから……お願いだからっ! オレのために帰って来いっ!! 」
……なに……それ……。
ビュンっと風が吹いた。
ヨウちゃんの右手の甲に、スパッと傷がつく。
「っ!」
ヨウちゃんがとっさに手を開く。
小ビンが転げて、宙にうかぶ。
「あっ!! 」
あたしは、さけんだ。
小ビンの中から、虹色の液体が丸いしずくになって、宙に飛び散る。
大粒のしずく。夜空に舞う虹色のしずく。
「ヨウちゃんの薬がっ!」
あたしは妖精の少女の手をふりほどいた。
ふわふわパーマの少女の青い瞳が、さみしげにゆれる。
虹色の丸いしずくが、シャボン玉のようにふりそそぐ中。
あたしは、妖精の少女と向かい合った。
「……ごめんなさい。あたしはやっぱり、妖精の世界には行けません」
パッと背を向けて。虹色のしずくに向かって、両腕をさしだして。
大玉みたいなしずくを、自分の胸にしっかりと抱きとめる。
水滴がはじける瞬間。
口を開いて、虹色の液体をのどの奥に流し込んだ。
「綾ぁっ!」
ヨウちゃんの声をきいた気がした。
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