ナイショの妖精さん

くまの広珠

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5 真夜中のダンスパーティー

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 地下室の書斎は、濃い草のにおいで充満している。

 ヨウちゃんはさっきまで、ヒソップの茎をはさみで細かく刻んでいたけど、今度は厚底なべで、ことこと煮はじめた。

 お父さんのつくえの上に、ガスボンベの小さなコンロを置いて。コンロの上のなべをかきまぜている。

 手元には、ページの開かれた翻訳ノート。茎をすりつぶしたすり鉢。ボロボロにこぼれたヒソップのお花と葉と茎。

 あたしは、つくえに積みあげられた本の山の陰から、そのようすをのぞいてる。

「えっと、けっこうめんどくさいな。浄化の煎剤をつくるには、花と葉と茎を、一対十対二十の割合で入れ、煮出し汁を、十倍に濃縮する……」

 ヨウちゃん、ノートを読みあげて、「ちょっと茎の量が少なすぎか?」って、おなべに、茎をパラパラ。

「濃縮したら火をとめ、十度まで冷やして、液体が虹色にかわれば、完成……」

 コンロのつまみをカチッと切って、ヨウちゃんは煮出し汁を、耐熱ビンに注ぎこんだ。それからビンを、氷水のボウルにドポン。

「って、失敗か。ぜんぜん虹色にかわんねぇ。やっぱ、水温計がないとムリか」

「はぁ」ってため息ついて、肩をこきこき。もう一度ノートに目を通して、「あ?」って大きなひとり言。

「『薬を調合するとき、分量や温度はすべて正確でなければならない』ま、マジでかっ?」

 おたおたと上のお店にのぼっていって、水温計と計量カップと調理用のはかりを両手に抱えて、もどって来る。



「よし、仕切りなおしだっ!」

 今度は慎重に、葉っぱのグラムをはかりだした。

 薬の調合って、むずかしいんだ……。

 今までみたいに、葉っぱをペットボトルの水にひたしたり、お花をつんできて花ビンに活けたりするだけじゃ、ダメみたい。

 ……あたしを人間にもどす薬だからかな……?

 本当はあたし、こんなところにいないで、仲間をさがしに行こうとは思っているんだけど。

 でも……外って暗いんだよね……。



「あっ! くそっ!!  また失敗かよっ!」

 ヨウちゃんの声が荒れてきた。

 本の陰からのぞいたら、つくえの上に、失敗作の小ビンが増えていた。

 さっきまで、二個くらいだったのが、もう五個。

 ヨウちゃん、ガンってイスを蹴って、八つ当たり。さらにはこぶしでドンって、つくえをたたいてる。

 ……だ、だいじょうぶ……?

 つくえの上にちらばっていたヒソップの山が、いつの間にか五分の一くらいにまで減ってるし。




 何度目かのおなべに、火を入れる音がした。

 ボンベの火が燃える、しゅうしゅういう小さな音。

 そういえば、ヨウちゃんの声、もう何十分もきいてない……。

 ヨウちゃんはこっちに背を向けて、なべの中を見ている。

 Tシャツの肩がちぢこまってる。いつになく細っこくて、かよわい感じ。

 つかれたよね……。

 だって、失敗作のビンはもう、十個近くも転がってる。


「……失敗……」


 カチッと、コンロのつまみを切る音がした。だけど、それ以上、音がきこえてこない。

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