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4 羽開くとき
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しおりを挟む背の高いヨウちゃんの背中は動かない。
広い肩幅。足も長くって、上からリンちゃんを見おろしてて。なんだかすごく……おとなのオトコの人。
どうしよう……ヨウちゃんが行っちゃう……。
有香ちゃんや真央ちゃんが、恋したとたんに、遠い人になっちゃったみたいに。
ヨウちゃんまでリンちゃんに恋をして、あたしを置いて、おとなになっちゃう。
「ごめん。オレ、倉橋とはつきあえない」
ハッとして、あたしは顔をあげた。
廊下で、リンちゃんはくちびるをかんで、うつむいていた。
「……なんで? やっぱり、中条君には好きな人が……」
「それは……自分でもよくわからない……」
……え? わからない?
「けど、そのことだけじゃなくて。オレには、倉橋とつきあう資格がないんだ。オレは、今まで倉橋のことを、自分をたててくれる女子としか思ってこなかった。オレの都合のいい程度にしか、見てこなかったんだ。
ごめん。こんなこと言われたら、傷つくよな。これからは、友だちとして、ちゃんと向き合うから」
「……そんなこと、知ってたよ」
リンちゃんの声が、うわずってる。
「中条君が、わたしをちゃんと見てないことくらい、知ってた。それでもいい。わたし、いつかかならず、中条君にふり向いてもらうっ! だから、わたしが、本気だってことだけは、覚えといてっ!」
リンちゃんの目が、ふっとヨウちゃんからそれて、窓越しに教室のあたしを見た。
えっ!?
猫みたいな上がり目に、ギンって、にらまれる。
「負けないからっ!! 」
パッと、ミニスカートをひるがして、リンちゃんが廊下をかけだしてく。
カタカタ、小さくなっていくランドセルの音。
ド、ド、ド、ド、あたしの心臓の音ものすごい。
な、なにっ!?
なにが、どうなっちゃってんのっ!?
あたし、リンちゃんの頭の中で、勝手に、恋のライバルにされちゃってるっ!?
ガラッと、目の前のドアが開いた。
「って、う、うあっ!? 」
入ってきたヨウちゃんが、たたらを踏んで、三歩さがる。
「あ、あ、あ、あ、綾っ! い、い、今の話、き、き、き、きいてた……?」
ヨウちゃんの顔、見る間に、耳まで赤く染まってく。
って思ったら、両手で顔をおおって、その場にぐしゃって、しゃがみ込んだ。
「うぁ~っ!! 信じらんねぇっ! 人生初で告白とかされたっ! なんだアレは。告白って、される側も、めっちゃ緊張するなっ!」
なんだ……いつものヨウちゃん……。
さっきまでは、カッコつけて、クールなふりをしてただけ。けっきょくのところは、ビビリのヘタレ。
「……綾?」
安心したはずなんだけど。
あたしの足は、そろそろと窓際へ遠ざかっていく。
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