ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 羽開くとき

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「リン~、今から教室にもどるの~?」

 教室の外から、女子の声がきこえてきて、あたしはハッと顔をあげた。

「ごめん、ちょっとわすれもの~。先、帰ってて~」

 リンちゃんの声と、足音が、廊下を近づいてくる。

 ヤダっ! 今、リンちゃんと顔合わせたくないっ!


「――あれ? 倉橋?」

 廊下から、別の低い声もした。

 ……ヨウちゃん……。

 教室の後ろのドアに近寄っていって、あたしはそっと、ドアの窓から、廊下をのぞいた。

 廊下で、ヨウちゃんと、リンちゃんが向かい合ってる。

 ヨウちゃんは、西階段を二階からあがってきたみたい。
 
 リンちゃんは、廊下を東からかけてきたみたい。

「なんだ。倉橋もまだ学校にのこってたのか。綾……じゃなくて、和泉がどこにいるか知らねぇ? ランドセルは教室にあるんだけど、ずっと見つかんなくてさ」

 ポリポリ後ろ頭をかくヨウちゃんに、リンちゃん、きゅっとくちびるをかんだ。

「……知らない」

 え~? ちょっとぉ!
 自分が屋上に呼びだして、あたしのこと、いじめたんじゃない~っ!

「そんな人のことより、中条君。わたしききたいことがあるの。――中条君て、好きな人いるの?」

 ……えええっ!?

 あたし、ひょっこり、窓から顔をのりだしちゃった。

 って、バッチリ、リンちゃんと目が合っちゃったし。

 サイアク。

 リンちゃんは、ヨウちゃんの背中越しに、ギロってあたしをにらんでくる。

 窓に背を向けたヨウちゃんは、教室の中のあたしに気づいてない。首後ろに手を置いて、「……え?」とかマヌケな声。

「好きな人がいないなら、わたしとつきあって」

 うわっ!?  直球っ!

 リンちゃんはもう、あたしなんか気にしてない。ほっぺたを桃みたいに染めて、うつむいている。

「わたしが、中条君のことを好きになったのは、四年生のときだよ。球技大会中に、わたし、お腹が痛くて、動くのもつらくなっちゃったの。だけど、わたしがチームの中で一番、バスケができたから、ぜったいに抜けられないって、意地になってた。

そしたら、中条君だけが、気づいてくれたの。『大会より、自分の体を心配しろ』って、選手をかわってくれた。うれしかったんだ……」

「……そんなこと、あったか?」

「うん。わすれてると思ってた。あのころは、まだ中条君も身長、真ん中辺だったし。中条君のカッコよさが、今みたいに広まってなかったから、わたしが独占できると思ったんだけどね。もう、『みんなの中条君』になっちゃったから、ちょっとさびしいかな」

 ……リンちゃん……そうだったんだ……。

 ドラマとかマンガの男の人に、ヨウちゃんを重ねあわせて、妄想で楽しんでたわけじゃなかったんだ。

 本気で、ヨウちゃんのこと好きだったんだ……。

「ね? 中条君、いいでしょ? わたし、これ以上、『みんなの中条君』で満足してらんないの! 抜けがけでもいい! 中条君を独り占めしたいのっ!! 」

 なんかヘン。見えない手で、心臓をぎゅっと、わしづかみにされてるみたい。

 だって、リンちゃん……カワイイ……。

 さっきの鬼のリンちゃんとは、まるきり別人。

 ほっぺたを真っ赤にして。目をうるうるにして。泣きそうになりながら、ヨウちゃんを見あげてる。

 こんなの、あたしが男子だったら、ぜったいに抱きしめちゃうよっ!


 ヨウちゃんは、どうするの……?



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