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4 羽開くとき
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しおりを挟む最近の季節って、「夏」か「冬」しかないみたい。
長かった夏が終わったと思ったら、「秋」をとばして、一気に寒い冬になる。
屋上から三階の廊下におりていくと、みんなはもう、帰ったあとだった。
踏み込む足首が、ガクガクして、ぜんぜん力が入らない。
手の先から足の先まで、ずっと震えがおさまんない。
なんでよ、あたし? ちょっと言われただけなのに!
今までだって、悪口くらい、さんざん言われてきたじゃないっ!
ガラッと、六年生の教室の前のドアを開けると、あたしの席と、教室の真ん真ん中の一番後ろ席にだけ、ランドセルがのこってた。
あ……ヨウちゃんのランドセル……。
心にポッとあかりがともる。
だけど、きょう一日、あたしはヨウちゃんと話せてない。
有香ちゃんに対する、あてつけみたいになっちゃったらイヤだし。
それに、あたしたちのケンカ、ヨウちゃんにもきかれちゃったし。
顔の見方もわすれちゃった……。
教室を横断して、一番後ろの席まで歩いていくと、ランドセルの横に、なにかが置いてあった。
これ……。
ヨウちゃんのお母さんが翻訳したノート。表紙には、あたしが四歳のときの年と、日付が書かれてる。
開いた窓から、ひゅっと、冷たい風が吹き込んできた。白いカーテンがふくらんで、なびく。
風にあおられて、ノートがパラパラと、ページをめくり出した。
右上に折り目がついたページで、ノートがとまる。
「九月二十ニ日」っていう日付と、「晴れ」って文字。
《浅山にて。前日に引き続き、タマゴの観察。直径十五ミリほどで、球状。色は真珠を思わせる》
なんだろ? お父さんの日記かな?
折り目がついてるってことは、ヨウちゃんが気になって、印につけたってことなんだろうけど。
《遠足中の幼稚園児がはぐれて、砲弾倉庫のヒースの茂みに迷い込む。保護して、保育士のもとに送りとどける》
バクン、バクン。心臓が、大きな音で鳴り出した。
これ、あたしと会ったときのお父さんの記録だっ!
《迷子になったその子は、自分自身に落ち込み、自信をなくしているようだった。わたしは、その子に『羽がある』という話をする。
子どもにはみんな、希望や夢をかなえるための羽がある。
それさえ、わすれなければ、どんなにつらい日が続こうとも、いつか努力は実をむすび、希望の空を、自由に飛べる日が来るだろう。
そのための心の羽をわすれないでほしいと、伝える》
――え?
……心の……羽……?
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