ナイショの妖精さん

くまの広珠

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3 アホっ子ちゃん、がんばる

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「だけど……ヨウちゃん、吹くなって言ったのに……?」

 琥珀色の目、めちゃめちゃ冷たい。南極の氷みたい。ペンギンとか住んでそう。

 ……これ……あたしの演奏が下手だったからって、イヤがらせ……?

「綾ちゃん、いいよ、ほっときな?」

「なにがあったか知らないけど、綾は中条の言いなりになる必要ないからな」

 有香ちゃんと真央ちゃんにうなずきながらも、あたしはリコーダーに口をつけていた。

 だって、琥珀色の目に、金縛りにされてるみたい。

 そーっと、リコーダーに息を通してみる。

 くるくる回りだす万華鏡。

 きのうすっかりわすれたはずの曲を、指が勝手に奏でていく。




 キーンコーン、カーンコーン。

 遠くでチャイムの音がきこえた。

 リコーダーから、そっと口をはなすと、教室の中が静まり返っていた。

 リンちゃんや青森さんたちは、ヨウちゃんの横で、ぼんやりとつっ立ってる。

 有香ちゃんと真央ちゃんもあたしのそばで、じっとしている。

 ふり返ると、男子たちまで、動きをとめていた。

 誠はしゃがみこんで、サッカーボールを抱えている。大岩も、窪の席に向かい合わせで座って、こっちを見てる。

 ストップウォッチで「やぁ!」って時間を一時停止しちゃったみたい。教室の空気が止まってる。

「や、ヤバイっ!」

 教室の一番後ろの席。女子たちの真ん中で、ヨウちゃんがガタガタ立ちあがった。

「つい、やっちまった! 今のアレは、妖精の音楽だっ!」

「……妖精の……音楽……?」

 ドキンドキンと心臓が鳴る。

 それを、あたしが奏でてたの……?

 自分の胸から腕へ。指先へ。虹色の力が宿ってきているみたい。

「そ……それじゃ……やっぱりあたしは……」


「綾、逃げろっ!」

「えっ 」って思ったときには、ヨウちゃんに腕をとられて、走らされていた。

「な、なんでっ!? 」

 教室から出ようとすると、「和泉ぃ~」って男子集団にかこまれた。

 誠も大岩も窪も、ほっぺたピンク色。目はハート。

「和泉ぃ~、オレとつきあってくれ~!」

「和泉、オレのために、一生、あの曲を吹き続けてくれ~っ !!」

 ええっ!?  なんで急に、あたしモテモテっ !?

「アホか、おまえら、落ちつけっ!」

 ヨウちゃん、誠のひたいを平手打ち。

 男子たちがひるんだ拍子に、ヨウちゃんは、あたしを廊下に引っぱり出して、バシッと教室の前のドアを閉めた。

「マズイ。迷信とかって、ナメてる場合じゃなかったっ! 妖精の音楽は、マジで人を魅了するんだ。早く解かないと、めんどうなことになるっ!」

「み、みりょうって、なに?」

「惚れさせるってことだよ!」

 ほ、惚れっ !?

「って、ラブ? こ、恋する音楽っ!? 」

「ほかに、なにがあるっ!?  きのう、おかしいと思ったんだ。だから、おまえに『人前で吹くな』ってとめたのに。バカか、オレはっ! 女子たちがあんまり綾の悪口を言うから。綾は、ホントはすげぇ演奏できんのにって、ムカついて、つい……」

 え……? じゃあ、さっきの冷たい目は、あたしに怒ってたわけじゃなかったの?

「こ、恋する音楽なら、いいじゃんっ! そのままにしてよ! あたし、モテたい~っ!! 」

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