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2 妖精のお医者さん
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しおりを挟む「けっかい? って、戦うマンガでよくある、あの、透明な壁みたいなヤツ? 敵の攻撃を防ぐ……」
「おまえ、だれと戦う気だよ? これは現実社会と、自分を切りはなすための壁!」
あ……そういえばそんなこと、たしか、ノートにも書いてあったような……。
「って、なんで中条が知ってんの? ノートはあたしが持ってるのに」
きょとんときいただけなのに、中条のこめかみに、ピクピク血管がうきでた。
「おまえなっ!! おまえがノートを持ってったから、こっちは苦労して、原文訳したんだっ! 単語ひとつひとつ辞書で調べて、エライ苦労したんだからなっ!! おかげでここ数日、平均睡眠時間、三時間だっ!」
え……? ウソ……?
「だって……どうして? 中条は、妖精に関わる気なんかないって言ってたじゃん!」
「うるさい! ど~だって、いいだろっ ほら、この中入れっ!」
ぐいっと腕をつかまれて、ぺたんと座らされる。見たら、中条が撒いたパウダーの円の真ん中。
「で、えっと……たしか、あやしげな文句をとなえる。……『ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーよ。我々と、ダーナの末裔を同化したまえ』。
そしたら、あおむけに寝ころがって。自分の中の自然を意識する」
あ……ここまでは、あたしがやってたところ。
「そうして、結界が球状になって、自分のまわりを包み込んでいるのを感じる」
「球状。球状……」
あたしが寝ころんだら、なんでか、となりに中条まで来て、寝そべった。
「ねぇ、球状って、どんなんだろ? ベイランドに、巨大なビニールボールの中に入って遊ぶヤツあったじゃん。あんな感じ?」
「知らねぇけど、まぁ、そんなんじゃねぇ?」
……ヘンなの。
そよそよ風が吹く芝生の真ん中に、あたし、目をつむって、中条と寝ころんでる。
学校では一言もしゃべらないような他人なのに。今は、肩がふれるほどそばにいる。
「……和泉、ちゃんと集中してるか?」
「えっ !? し、してるもん!」
「ぜんぜん、イメージが広がってこないんだけど。日記どおりだと、目に見えるくらい球を感じるらしいじゃねぇか?」
「そんなの、中条が集中してないからでしょ? あたしが集中してないのと、中条に見えないのは関係ないじゃん」
「……同じ円内にいるんだから、関係あると思うぞ」
ぼそっと言われて、あたし、思わず右を見た。
「……和泉、ごめん。とうさんのこと、おまえに押しつけようとして」
「……え?」
となりに寝そべる中条の顔の上に、パッと腕が置かれる。中条の右腕に隠れて、ほおしか見えない。
「う、ううん。あたしはただ、妖精に興味があるから……。勝手にフェアリー・ドクターになりたかっただけ」
だからそんな、中条の家庭にわり込むみたいな、重い気持ちじゃなかったのに。
「あ、あたしこそ、ごめんね。あたしもしかして、なんにも考えないで、勝手に人の家のことに首つっこんでた?」
「それが、和泉だろ?」
「え?」
「アホっ子だから、なんも深く考えない」
あっ! ムカッ!
「なによっ! 人のこと、アホとか言わないでよ !!」
ぷっとふきだす声がした。
見たら、腕の下で、中条が体を震わせて笑ってる。
……あれ……?
ほっぺた赤い。桃みたいにやわらかそう。
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