ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 妖精のお医者さん

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「おい、行くぞ」

 カウンターから出てきた中条は、鍵についたリングを指先でまわしてた。廊下の階段を、のぼっていくのかと思ったら、おりていく。

「あれ? 地下室まであるの?」

 そういえば、外から見たとき、テラスの下に、崖にへばりついた、もうひとつの部屋があったような……。

 中条について階段をおりきると、つきあたりに木のドアがそびえていた。
 黒々していて、重たそう。人に入られるのをこばんでいるみたい。

「ここ、オレんちのあかずの間」

 鍵穴に鍵をさし込んで、中条がニヤっと笑った。

 とたんに、ぞくぞくと寒気が。

 だって今、中条の口元、ドラキュラみたいにゆがんでた。

 ガチャンと鍵がはずれて、ギイとドアが開いていく。

 そういえば、この人……なんで、あたしを家に呼んだんだろ……?

 リンちゃんたちでさえ、呼びたくないって家に……。


「ほら、入れ」

 背中を押されて、あたし、「ふぎゃっ!」って、とびはねた。

「い、イヤぁっ! 入んないっ!!  あんたの魂胆なんか、わかってんだからっ! あたしが弱みをにぎっちゃったから、中条、口封じのために、あたしをこの中に閉じ込める気なんでしょう!! 」

「はぁ? おまえな。人をどんだけ悪人だと思ってんだよ」

 だって、中は真っ暗。左側の大きな窓は、黒いカーテンで閉めきられてる。

「ったく。ここまで、のこのこついてきて」

 中条が大またで部屋に入っていく。シャッとカーテンを開けた。

 パッと、オレンジ色の光が、とびこんでくる。

 ……うわぁ……。

 あらわれたのは、広いフローリングの一間だった。あたしの部屋が三つも四つも入りそう。その南から西まで、ぜんぶ窓。

 窓の外は、夕日を受ける海を見わたせる。

「スゴイ、絶景……」

 あたしは地元民だから、海なんて見慣れてる。

 だけど、地上から見る海って、防波堤や波消しブロックでくぎられている。180度に広がる水平線なんて、そうそうお目にかかれない。

「おい。窓じゃなくて、こっちだ」

 ふり向いたら、ダークブラウンの木の本だなが、ずんと壁をうめていた。

 窓ののこり、二面の壁がぜんぶたな。天井からゆかまでのつくりつけ。
 ぎっしりとつまった本は、学校の図書室の本よりも古そう。背表紙は英語ばかり。

「閉めきってたわりには、ほこりがつもってないな」

 中条が見あげているたなには、空の密封ビンがならべてあった。下の段には、理科の実験でつかうビーカー。かと思ったら、すりこぎに、厚底なべ。

 う~んと。図書室と、理科室と、調理室がいっしょになっちゃったって感じ?

「ねぇ、この部屋、なに……?」


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