ナイショの妖精さん

くまの広珠

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2 妖精のお医者さん

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 坂はどんどん急になる。

 きのう山登りしたふくらはぎは、パンッパンでもう破裂寸前!

 だけど、前を歩くムカつくほど長い足は、ぜんぜんスピードをゆるめない。


 ペンション風の三角屋根の家が建つ高台を、よたよたとのぼっていくと、ひときわ白い横板壁の家が見えてきた。
 高台の斜面に、海にせり出して建てられていて、崖に足場を組んで、下から家を支えている。

「ここ、オレんち」

 ウソぉ……。

 あたしはアホ毛をゆらして、立ちつくした。

 屋根を見あげれば、風見鶏。門には、ピンクのバラのアーチ。

 庭はモスグリーンの形のちがう葉っぱでいっぱい。稲っぽい葉っぱだったり。丸っこい葉っぱだったり。そのあちこちに、うす紫や白や水色の小花が咲いている。

 め、メルヘン……絵本の世界に迷い込んじゃったみたい。

 なのに、葉っぱの間の小路を歩くのは、中条。

 うう……メルヘン台無しっ!

 小路の先に、石レンガづくりのポーチが近づいてきた。

「つむじ風」っていう看板と、白いペンキで塗られたメニューの立て看板。白木のドアには、「本日定休日」っていうプレートがさがってる。

「あれ? 中条んちって、お店屋さん?」

「かあさんが最近、自宅カフェをはじめたんだ。ここらへんに植わってんのはみんな、店でつかうハーブな」

 なにそれ、ズルイ。

 自家栽培のハーブをつかったケーキやティーなんて、おいしいに決まってんじゃんっ!

「これで、中条の家でさえなければ……」

「どういう意味だよ」

 ランドセルから家の鍵を出して。ドアを開けて、中条は中にあごをしゃくった。

「店のことは、学校のヤツらに話すなよ。家におしかけられると、めんどうだから」

「え~? なんで? お客さんがあつまったほうがいいんじゃないの?」

「うるさいのはイヤなんだよ。年がら年中キャアキャア言われてたら、気が休まらないだろ?」

「なによ。学校じゃ、女子たちにかこまれて、ニヤけてるくせに」

「そりゃ、うれしいに決まってんだろ、オトコなんだから。別格みたいで気分いいし」

 なにこの人、サイアクっ!

「モテモテの自分」を人に見られるのは大好きだけど、みんなのいないとこじゃ、「ほっといてくれ」ってこと?

 やっぱり、女子たちを、にぎやかしぐらいにしか思ってないじゃん。

「ヒドイ、中条。リンちゃんたちは、本気で中条のことが好きなのに……」

「……べつに。だれも、本気でオレのことを好きなわけじゃねぇだろ。アレだよ。ドラマとかマンガのオトコにオレを重ねあわせて。勝手に妄想ふくらませて、楽しんでるってヤツ」

 ……冷めてる……。

 玄関にあがったら、廊下の横にお店の入り口があって、中には、脚がくるんと丸まったテーブルとイスが、たくさんならんでいた。
 お店は休みで、だれもいない。

 ふいごの置いてある薪ストーブ。壁からぶらさがるドライハーブ。海に面したテラスには、白いパラソルがアサガオの花みたいに開いてる。

「かあさんはまだ、買出し中だな」

 中条はカウンターの中に入っていって、ごそごそなにかやってる。

「……ねぇ、女子たちの気持ちがわかっててさ。中条はむなしくならないの?」

「べつに。いいんじゃねぇの? 利害が一致してるんだから」

 ……それはそうなんだけど。

 な~んか、もやもや。

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