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2 妖精のお医者さん
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……なっとくいかない。
ぜんっぜん、なっとくいかない。
校外学習の次の日。放課後の図書室で。
あたしは、『浅山の歴史』って題名の本を開いて、「浅山砲弾倉庫」って書かれた項目を、にらみつけてる。
本で顔が隠れちゃうくらい、じっと見ているけど、読んでるわけじゃない。
あたしの頭は、病気の妖精と、逃げてきた中条のことで、もんもん。
ほかの三班の子たちは、白紙の模造紙を前にして、中条の意見をきいている。
模造紙にシャープペンでうすく線を引きながら、「ここから先は説明で」「ここは写真の位置」って指示を出してる中条。
なによ! しらっと冷めた目しちゃって。
「りょ~かい! さっすが中条君、まとめるのもうまいんだ~。じゃ、わたしは地図描くね。こら、誠! 発表する紙なんだから、落書きしないっ!」
はりきりまくりのリンちゃん。
「おい。和泉は、写真の下の説明担当だ」
上から手がのびてきて、パッと、本を取りあげられた。
顔をあげたら、あたしを見くだしている琥珀色の目。
「だから、今、説明書くために、本読んでるのっ! 返してよっ!! 」
あたしの声からトゲが出た。
リンちゃんが、「え?」っていう目であたしを見る。
そうかもしれない。
あたしみたいな、アホっ子が、天下の中条に言い返すなんて、はたから見たら想定外なのかもしれない。
でもあたし、中条なんかもう、ぜんっぜん怖くない!
こんなヤツ、ただのビビリのヘタレじゃんっ !!
池みたいに広い模造紙を、マジックのきたない字と写真とヘンな地図でうめつくして。
図書室を出たときには、太陽がオレンジ色にかわってた。
「じゃあね~、中条くぅ~ん 」
ツインテールをゆらして、るんるん帰っていくリンちゃん。
「ばいばいき~ん」
誠もかかとをつぶした運動ぐつで、ペタペタ道をまがっていく。
人も車も通らない住宅街。低くつらなる一戸建ての屋根の向こうに、浅山のなだらかな山並みがのぞいている。
反対側の住宅街が消えて、堤防にかわった。
堤防の向こうは、色紙を空の下に貼りつけたみたいに、青一色。
きょうは空が澄んでいるから、海の色も濃く見える。
「……おい」
あたしの前を行く黒いTシャツが、ヌリカベみたいに立ちはだかった。
「おまえの家は、逆方向だろ? なんでオレについてくんだよっ!」
中条の言うとおり。
あたしの家は、学校の向こう側。ドラッグストアとか携帯ショップが建ちならぶ大通りから、道を一本入ったところ。
中条の家は、この道をずっと歩いた高台にある。
まわりにも何軒か家があるんだけど。ママからきいた話だと、急な坂をのぼっていかなきゃならない場所だから、引っ越してきても、生活がきつくなって、出て行っちゃう人も多いんだとか。
それでなのかは知らないけど、うちの学年で、家がこっちにあるのは、中条だけ。
「……あのままでいいの?」
あたしは口をとがらせて、相手をにらみ返した。
「なにが?」
「あの妖精のおねえさん、病気だった。あの年下の子、助けてほしくて、中条に近づいてきたみたいだった!」
ぜんっぜん、なっとくいかない。
校外学習の次の日。放課後の図書室で。
あたしは、『浅山の歴史』って題名の本を開いて、「浅山砲弾倉庫」って書かれた項目を、にらみつけてる。
本で顔が隠れちゃうくらい、じっと見ているけど、読んでるわけじゃない。
あたしの頭は、病気の妖精と、逃げてきた中条のことで、もんもん。
ほかの三班の子たちは、白紙の模造紙を前にして、中条の意見をきいている。
模造紙にシャープペンでうすく線を引きながら、「ここから先は説明で」「ここは写真の位置」って指示を出してる中条。
なによ! しらっと冷めた目しちゃって。
「りょ~かい! さっすが中条君、まとめるのもうまいんだ~。じゃ、わたしは地図描くね。こら、誠! 発表する紙なんだから、落書きしないっ!」
はりきりまくりのリンちゃん。
「おい。和泉は、写真の下の説明担当だ」
上から手がのびてきて、パッと、本を取りあげられた。
顔をあげたら、あたしを見くだしている琥珀色の目。
「だから、今、説明書くために、本読んでるのっ! 返してよっ!! 」
あたしの声からトゲが出た。
リンちゃんが、「え?」っていう目であたしを見る。
そうかもしれない。
あたしみたいな、アホっ子が、天下の中条に言い返すなんて、はたから見たら想定外なのかもしれない。
でもあたし、中条なんかもう、ぜんっぜん怖くない!
こんなヤツ、ただのビビリのヘタレじゃんっ !!
池みたいに広い模造紙を、マジックのきたない字と写真とヘンな地図でうめつくして。
図書室を出たときには、太陽がオレンジ色にかわってた。
「じゃあね~、中条くぅ~ん 」
ツインテールをゆらして、るんるん帰っていくリンちゃん。
「ばいばいき~ん」
誠もかかとをつぶした運動ぐつで、ペタペタ道をまがっていく。
人も車も通らない住宅街。低くつらなる一戸建ての屋根の向こうに、浅山のなだらかな山並みがのぞいている。
反対側の住宅街が消えて、堤防にかわった。
堤防の向こうは、色紙を空の下に貼りつけたみたいに、青一色。
きょうは空が澄んでいるから、海の色も濃く見える。
「……おい」
あたしの前を行く黒いTシャツが、ヌリカベみたいに立ちはだかった。
「おまえの家は、逆方向だろ? なんでオレについてくんだよっ!」
中条の言うとおり。
あたしの家は、学校の向こう側。ドラッグストアとか携帯ショップが建ちならぶ大通りから、道を一本入ったところ。
中条の家は、この道をずっと歩いた高台にある。
まわりにも何軒か家があるんだけど。ママからきいた話だと、急な坂をのぼっていかなきゃならない場所だから、引っ越してきても、生活がきつくなって、出て行っちゃう人も多いんだとか。
それでなのかは知らないけど、うちの学年で、家がこっちにあるのは、中条だけ。
「……あのままでいいの?」
あたしは口をとがらせて、相手をにらみ返した。
「なにが?」
「あの妖精のおねえさん、病気だった。あの年下の子、助けてほしくて、中条に近づいてきたみたいだった!」
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