ナイショの妖精さん

くまの広珠

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1 記憶の実、ころり

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「和泉のヤツ横着して、山道歩かねぇで、この花畑つっきって、ここに来るつもりだったんだよ。ったく、花の葉は痛ぇし、ヒドイ目にあった。――で。オレたち三班は、この砲弾倉庫跡について調べりゃい~んだな?」

 中条は、両手を腰にあてて、もうレンガの建物を見あげてる。

 え……? ほうだんそうこ?

 みんなの興味も建物にうつってた。

 立て札の内容をノートにメモしはじめる、リンちゃん。ポケットからデジカメを出して、写真を撮る中条。誠は、まじまじとレンガの壁を観察してる。

 こんな建物になんの用?

 そうだ。今のうちに、あの妖精が入っていったところを、見に行ってこよっと。

 そそくさと、みんなの後ろを歩き出したら。
「和泉さん~?」って、リンちゃんに呼びとめられた。

「ひとりで班活動サボんないで。せめて、ここの全体図、描き出すとかして」

「えっと? あれ? なんで?」

「『なんで?』じゃないでしょっ !? わたしたち三班が調べるのは、このレンガの遺跡! 第二次世界大戦でつかわれた砲弾倉庫跡なのっ!」

 あ……そっか。

 このレンガの建物が、あたしたちの目的地。
 つまりあたしは、くねくねまがる登山道からそれて、花畑を横断して、近道して、ここに出ちゃったってわけ。

「花田市は、太平洋に面してるだろ? 戦争中は、敵が海から侵入してくるかもしれねぇから、見張りのために、浅山に基地をつくったんだよ。一班が調べてる『砲台跡』は、じっさいに、大砲が置いてあった場所。ここは、その大砲でつかう爆薬なんかをしまっていた倉庫」

「さすが、中条君~。くわし~」

 リンちゃん、両手をにぎりあわせて、ほれぼれ。

「まぁ、午前中に教わったことのくり返しだけどな」

 中条、上から目線で、まんざらじゃなさそう。

「……ふ~ん」

「戦争のときにつかわれた」って言われたって、あんまり実感わかないんだよね。

 それにここ、レンガをつんでつくられているから、一見、日本じゃなくて、ヨーロッパの遺跡みたい。

 たとえば、妖精が住んでいそうな……。

「中条君、そろそろ集合場所にもどろ。ここ、なんか肌寒くてオバケ出そう」

 立て札の文をうつし終わったリンちゃんが、自分の肩をさすった。

「だな。これ以上、写真撮るとこもなさそうだし、さっさと引きあげるか」

「え……あの……。でも……」

 あたしまだ、一番奥のアーチの中、見てないんだけど……。

 そっちへ歩きかけたら、「おい、和泉」って低い声で呼ばれた。

「なにしてんだ。行くぞ。これ以上、団体行動を乱すな」

「で、でもっ!」

 中条だって見たはずじゃない! あの中に妖精が入ってくのをっ !!

「でもも、けどもないっ!」

 あたしをにらんでくる、琥珀色の硬い目。
 その目の奥が、一瞬、ふ~ってゆらいで見えた。

 ……あ。なんかストンって、胃に落ちた気分。


「わかった。怖いんだ」


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