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1 記憶の実、ころり
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しおりを挟む……わすれてた……。
たぶん、イヤなことだから、脳みそが自分で、わすれる呪文をかけたんだと思う。
「ワスレ~ロ。ワスレ~ロ」って……。
先週。クラスで、遺跡を調べる班をくじ引きで決めたら、なぜだか中条の班にあたっちゃった。
班長が中条。男子ふたり、女子ふたりの班で、もうひとりの女子がリンちゃん。
……サイアク。
リンちゃんは「中条君といっしょなんて運命~」とか、ひとりではしゃいでたけど。
なんでも浅山には、あちこちに、昔の人がつかった遺跡がのこってるんだって。
だから午後の学習では、ハイキングコースをつかって、各班ごとに遺跡を見つけに行かなきゃならない。
で、見つけたら、写真を撮ったり、図書室で資料を調べたりして。来週の授業で、班ごとに発表する予定。
ランチタイムのあと、あたしは真央ちゃんや有香ちゃんとわかれて、ぜいぜい登山道をのぼっていた。
あたしの十メートル先を、カップルみたいに寄りそって歩く、中条とリンちゃん。
ツインテールをゆらして、猫みたいな上がり目で中条を見あげて。リンちゃん、キャッキャッって笑ってる。中条を独占できて、ハッピー全開。
中条はといえば。石膏みたいに硬そうな顔のまんま。たまに、ニヤけたり、しらけた目であいづちを打ったり。
ああいう冷めたところ、女子たちは「クールでカッコイイ」って言うけどさ。
女子たちひとりひとりから、微妙に距離を置いてるのって、ようするに、いつまでもひとりに決めないで、両手に花でいたいって、だけなんじゃない?
うちの班のもうひとりの男子は、誠。おサルみたいに木をのぼろうとしたり、棒を拾って、ふりまわしたり。
誠は幼稚園のころからこんな感じ。しょっちゅう先生に注意されるけど、本人の耳をつつ抜けていく。
「ねぇ、中条君。和泉さんがなかなか来ないんだけどぉ」
遠く感じる木々の間の小道から、リンちゃんの声がきこえてきた。
直後に、低~い怒鳴り声。
「おい、和泉。それ以上遅れたら、マジでおいてくからなっ!」
う……。怖い……。
だって、中条の声って、ほかの男子たちの声とぜんぜんちがう。ひとりだけ、すでに声がわりしてる。
だから、怒鳴るとドスがきいていて、おとなの男の人に怒られているみたいな気分になる。
なによ……。
クラスで一番背が高い人と、クラスで一番背が低いあたしじゃ、足の長さがぜんぜんちがうんだからっ!
歩くスピードだって、ちがうに決まってんじゃんっ!
暑い。
一歩、足を前に出すたびに、ダラダラと汗が、こめかみを伝う。
胸がぜいぜい、心臓バクバク。
早く歩かなきゃって思うのに。足が鉛みたいに重い。
あたし、短距離走はいつもビリ。かと思えば、長距離走もビリ。
黒板の字をノートに写すのも遅いから、ノートを取り終わる前に、先生に黒板を消されちゃう。
おまけにドジで、先生の話をちゃんときいていたはずなのに、みんなが算数の教科書出しているときに、あたしだけ国語を出してるし。
なにやっても、フツウにできない。
あたしだけ、できない。
――だいじょうぶ。きみの背中には羽がある――
鼻先を、つっとトンボの羽が横切った。
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