ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 地下からの招待

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「ええ~っ!?  綾まで、どうした、とつぜんっ!!  中条、なに考えてんだよ? なんで、おまえと綾だけのこるんだよ! こんな山ん中で、うちらの綾になにする気だっ!」

「ちがう! そうじゃなくって、おまえらふつうの人間だろっ! ふつうの人間がこの山にいたら、オレは結界を張れないんだよ!」

「中条、どうしちゃったの? 言ってることヘンだよ? 綾ちゃんも。無理だよ。たとえ、今から山をかけおりたって、日が落ちるまでもう、三十分もないじゃない」


 だけど誠は、きびすを返して走りだした。


「無理でもなんでも、かけおりろっ!!  日が暮れたら、モンスターが出てくるぞっ!!  あ~、オレ、冥界のリンゴ捨てなきゃよかった~っ!!  山にいられるのは、フェアリー・ドクターのふたりだけなんだよ~っ!! 」

「なんだその、妖精の医者って!」


 パニックでもう、よく頭がまわらない。

 ヨウちゃんがふと、横を見て、動きをとめた。



 ……え?


 あたしもそちらへ視線を向けて、立ちどまった。

 外人墓地の中。かまぼこ型の墓石の前に、男の人が立っている。

 夕日を背負ったその黒いシルエットは、中折れ帽子をかぶっていた。背広のえりもとに、ぼんやりとループタイがむすばれているのが見える。


「……とうさん……?」


 ヨウちゃんがつぶやく。


 シルエットの男の人は、すっと人差し指をヨウちゃんのほうにのばした。


「……え?」


 ヨウちゃんがふり返って、自分のお尻を見おろす。

 指し示した先は、ヨウちゃんのズボンの後ろポケット。

 ヨウちゃんはポケットから、ガラスの小ビンを取り出した。コルクのふたのついたビン。虹色の液体が四分の一のこっている。


「……チコリの……ビン?」


 ヨウちゃんのつぶやきに、お父さんはゆっくりとうなずいた。


 スッと、シルエットが、空気に吸い込まれる。

 風に消え去り、墓石の前にはもうだれも立っていなかった。



「ねぇ、ヨウちゃん……チコリの効能って、たしか……」


「チコリの花の煮出し汁は、鍵を開く。鍵をかける。……まさかっ!」


「葉児! ためしにやってみろよっ!! 」


 つっかかってくる有香ちゃんや真央ちゃんをなだめながら、誠がさけんだ。


 ヨウちゃんが、ビンを硬くにぎりしめる。

 オークのこずえの下に立ち、チコリのビンのコルクを抜く。


「チコリよ。ティル・ナ・ノーグの穴を閉じてくれ」


 地面に虹色の液体が撒かれる。そこからワッと虹色の光があがった。

 オーロラのように立ちあがり、うかびあがった地面の亀裂にしみこんでいく。


 亀裂が消えていく。

 つぎ目があわさり、地面に溶ける。



「き……消えた……」


 ヨウちゃんの声がかすれた。

 うつむいていた顔があがって、琥珀色の目があたしを見る。

 涙がうかんで、震えている。


「消えた……の? 本当に? つまり、鍵のなかったドアに、鍵がかかった……?」


 あたしの問いに、ヨウちゃんの口元がゆがむ。震えながら、口角があがっていって、ニッと笑う。
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