ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 地下からの招待

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「綾は、向こう見ずで、突発的。あぶなっかしくて、見てるこっちがハラハラする。でも、そうやって綾が動いたときにこそ、オレは綾に助けられる」


 白い肌に血管が通り、脈を打つ。


 ピンク色のくちびるが小さく開いて、息を吸う。



「綾は……」



 低い声がかすれた。たえきれず、嗚咽する。



「綾は……わたがしみたいに甘ったるい声で、オレを『ヨウちゃん』って呼ぶ……」



 あたしはそっと、まぶたを持ちあげた。



 ぼんやりと光る自分の腕が見えた。

 着ている白いワンピースが見えた。

 細い足が見えた。

 ほおでゆれている髪が見えた。



 あたしの目の前で、琥珀色の髪の少年が、あたしの光に照らされている。

 ゆがんだ琥珀色の瞳から涙をこぼし、涙は白いほおの上を透明に光りながら、あごまでつっと落ちていく。



 あたしはくちびるを開いた。のどを開けて空気を送る。

 声が外にこぼれる。



「……ヨウちゃん」



 ヨウちゃんは歯をかみしめた。だけど、たえようとした涙がこらえきれずに、目から一斉にあふれだす。


「綾ぁっ!! 」


 強い力で引っぱり込まれて、あたしの体はヨウちゃんの胸に押しつけられていた。


「い、いいかげんにしろっ! 心配かけさすなっ  また、ひとりで無茶しやがってっ!」


「ご、ごめんね。ヨウちゃん……」


 ヨウちゃんの背中に両手をまわしながら、自分の胸にともるあたたかい光を感じていた。


 あたしが、あたしの姿をしていること。

 あたしが、あたしの心を持っていること。

 あたしが、あたしとして、行動していること。


 それが、ぜんぶがないと、ダメ。


 あたしは、あたしじゃなくちゃ、ダメ……。







「クソガキ。きさま、最後の最後まで邪魔する気か……?」


 闇の中に、しわがれた老婆の声がとどろいた。


「きさまらだけ、この混沌の闇から逃げ出して、わたしひとりを、恐ろしい無へ追いやるというのかっ! きさまらにはどうしてこう、情けというものがないっ!!  わたしの願いはただひとつ。『自分を持つこと』。そんなささいな願いを、なぜ、きさまらは、ききとどけないっ!! 」


「ハグ。あなたは、『自分がほしい』って言うけど、『自分』って、ハグが思ってるほど、いいことばっかりじゃないよ」


 あたしは、ヨウちゃんの腕を抱いて、闇の中をにらみつけた。


「がんばっても、うまくいかなくて。どんなにやっても、やっぱりダメで。だけど、自分でいるためには、そんなダメな自分も、『自分だ』って、認めなきゃならないんだよっ!! 」


「綾の言う通りだな」


 ヨウちゃんも、キッと眉をつりあげて、闇を見すえた。


「おまけに、生きているとどうしても、自分の力じゃどうにもならない苦しいことや、かなしいことが起きる。そんなことさえも、自分のこととして、受け止めなければならない。

『自分を持つ』ってのはな、生きるための責任を背負うってことなんだよっ!! 」


「……せきにん……? わからないな。わたしは自分を持てたことがないのだから」


「ちがうだろ。ハグ。おまえは、自分を持てたことがないから、責任を背負えないんじゃない。責任を背負うことから逃げているから、自分を持てないんだ。

責任を、オレや綾や、妖精や、自分の不遇や、いろんなものにすりかえて、なすりつけて生きている。そんなおまえには、永遠に自分を持つことはできない。

『無』になるのが怖いんじゃない。おまえは、もとから自分は『無』だったと、認めることが怖いんだっ!! 」


「うるさいっ!! 」


 闇がぐわっと波打った。

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