ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 地下からの招待

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「綾っ!」


 遠くでだれかの声がした。


「綾っ!!  綾っ!! 」


 きき覚えのある声。低くって、でも、かれかかっていて、苦しそうにかすれている。



 ……だれ……?


 暗闇の中。わたしはもぞりとうごめく。


 こんな声をさせちゃダメ!

 お願い、この人をかなしませないでっ!


 自分の心の芯で、甘ったるい声がわめいている。



 うるさい。



 思考を閉じると、声は小さくかき消されていった。



 わたしは闇。


 ティル・ナ・ノーグをかたちづくる混沌の一部分。


 わたしだけではない。

 この闇はたくさんの意識の集合体だ。

 もともと人間であったもの。

 妖精であったもの。

 獣や魚や木や葉や花や。

 命のあったものたちが、その命の炎を消したあとに、この場所にあつまってくる。

 日が暮れ、一年が終わる晩に、混沌の闇はどろどろと混ざりあい、溶かされ、明るい新年の光を受けて、また秩序を持ち、別の形につくりかえられて、地上に生まれる。


「綾っ! 綾ぁっ!! 」


 さけんでいるあの声も、いずれ闇に飲まれ、混沌の一部となるだろう。



「おまえはもう、いないって言うのかっ!!  おまえの存在はもう、この闇に消されたあとだって、言うのかよっ!! 」


 低い声は、なおもさけんだ。


「ウソつけっ!! 」


 のどを引き裂くようなシャウト。

 闇が波打った。音は波紋となって広がり、ティル・ナ・ノーグのすみからすみへと広がっていく。


「たとえ……たとえ、おまえが消されても、オレがおまえを知ってるっ!! 」


 混沌の中で、心が目を開けた気配がした。




 あなたが……あたしを……?





「綾は、花田中学の一年で一番、背が低い。手足は細くて、もやしみたいにやせている。髪が肩までのびていて。だけど、頭のてっぺんには、ひとふさだけ、かならずアホ毛がそり返ってる」



 ぽ……。



 闇の中にぼんやりとした光が浮かびあがった。

 おぼろ月のような光は、粘土のように形をかえ、闇の中に細い線をつくっていく。二本の手。二本の足。頭。髪。



「今、着ているのは白いワンピース。ひざでスカートが広がった、やさしいレースのワンピース」


 ひざでレースのすそがゆれた。



「目は大きくてたれ目。細くてたよりない眉毛。鼻はちっこい。口の先が、ほんの少しとがってる。ふれたら溶けそうなくらい、やわらかいほっぺた。力を込めて抱きしめたら、折れてしまいそうな細い腰」


 淡い光が、人の形にかわっていく。



「綾は自称、運動オンチ。体育がキライ。だけど、練習すれば、カンペキなフォームでちゃんと走れる。歌はうまくなくて、笛が苦手。だけど、ゆっくりとだったら、ちゃんと吹ける。勉強が苦手。記憶力がないって言う。だけど、一晩で、劇のセリフを暗記できた。

手先が不器用って言うけれど、オレのためにサシェをつくってくれた。ブックカバーもつくってくれた。誠にパペットの人形をつくった。パッチワークで、スゴイ作品をつくれる」


 人の形の胸に光がともる。心臓の鼓動のように。ドクン、ドクンとオレンジ色に光る。


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