ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 地下からの招待

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 外人墓地の中央にそびえるオークの巨木。

 その下になにかが見える。

 白いショートパンツをはいた少女が泣いている。


「杏ちゃんかっ!? 」


 かけよると、その子は涙でぬれた顔をあげた。カチューシャの白い猫耳が、頭から半分ずり落ちている。ショートパンツや足を土でよごして、地面に座り込んでいる。


「……ずっとここにいたのか? なにがあった? 妖精のかっこうをしたおねえちゃんには、会わなかったか?」


 とたんに、おさない口元が震えだした。両目から涙があふれだす。


「おにいちゃん……おねえちゃんが……おねえちゃんがぁ~っ!! 」



 オレの腰にしがみついて泣きじゃくる、杏ちゃんの話をききながら、気を抜くと麻痺しそうになる頭を、懸命に整理した。


「……綾は……ハグに穴に落とされた……のか」


 今、木陰はあちこちに水たまりができているだけで、ティル・ナ・ノーグの穴などどこにもない。

 ハグは、綾だけをティル・ナ・ノーグにつれ込んだ。


 自分のいけにえとして……。


「杏ちゃんがね、杏ちゃんがいけないのっ! あの真っ黒の影は、杏ちゃんを落とすつもりだったの。それをね、おねえちゃんが助けてくれたの。杏ちゃんのせいで……おねえちゃんが……」


 小さななで肩が、震えている。しゃくりあげるたびに、こぼれた涙の粒が、ぼろぼろと地面に落ちていく。


「杏ちゃんね。ダメな子なの。なにをやってもダメで、遅くって、みんなに『トロい、トロい』って言われるの。おねえちゃんじゃなくって、杏ちゃんがいなくなればよかったんだ……っ!」


「……あのおねえちゃんも、ずっと、同じようなことを言ってたよ」


 オレは、雨に乱れたオールバックの前髪を、手ぐしでおろした。

 マントの中に背負ってきたナップサックをおろして、ドラキュラの牙とマントをその中につっ込む。

 かわりにタオルをとりだした。杏ちゃんの頭にタオルをかぶせて、ごしごしと雨水をふく。


「おねえちゃんも『自分はダメな子だ』って決めつけてた。自分はなにもできないって、思い込んでた。けど……あのおねえちゃんの背中には、羽があったんだ」


「……羽……?」


 タオルの下で、杏ちゃんがまばたきして、オレを見あげる。


「チチチチチチ」


 スプーンとフォークを打ちつけるような音がして、チチが舞いおりてきた。

 チチがオレの右肩にすいっと、とまる。

 と、左肩にも、ヒメがおりてきて、ちょんと座った。


「おねえちゃんは、その羽をはばたかせて、何度もオレを助けてくれた。なにをやってもダメな人間なんて、ひとりもいないんだ。

……だいじょうぶ。きみの背中にも羽がある。目には見えないけれど、かならずある。それをわすれるなよ。わすれなければ、いつかきっと、きみも空を飛んでいけるから」


 オークの葉の陰から、雨宿りしていた妖精たちが、ひとり、ふたりとあらわれてくる。

 雨雲からもれだした細い太陽の帯の下。くるり、くるりと宙返りする。


「……杏ちゃんでも……空を飛べるの……?」



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