ナイショの妖精さん

くまの広珠

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6 地下からの招待

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「あ~、妖精のおねえちゃんだ~」


 あたしが芝生広場の真ん中に歩いていくと、子どもたちがとんできて、あたしの腰にしがみついたり。羽のセロハンをさわったり。


「ね、あたしも鬼ごっこに入れて」

「いいよ~!」

「おねえちゃん、今は杏ちゃんが鬼だから、逃げて、逃げてっ!! 」


 杏ちゃんは、あっちに走り出しては、立ちどまり。反対の子にはやされては、かけだして、あきらめてまた立ちどまり。けっきょく、輪の真ん中にぽつんとつっ立ってる。


「杏ちゃん、こっちこっち!」


 あたしは、わざと杏ちゃんのそばまで近寄っていって、一メートル手前で立ちどまった。

 のびてくる小さな手のひら。ひょいっと避けて、軽く走って。


「おねえちゃん、待てぇ」


 杏ちゃんが来るの待って。またゆっくりと走り出す。

 後ろばっかり見て走っていたら、肩がドンっと、だれかの胸にぶつかった。


「……綾。前見ろよ」


「……ヨウちゃん」


 琥珀色の前髪をワックスであげて、おでこを見せて、オールバック。外側は黒で、内側は赤いロングマントのえりを立てて。黒のベストに黒のズボン。口にとがった牙がのぞいてる。


「きゃははははっ!!  牙のはえたホストがいる~っ!」

「おまえが着ろって、言ったんだろっ!! 」


 けっきょくあたしがつくったのは、コウモリをイメージして、すそをギザギザにカットしたマントだけ。あとは、家にあった冠婚葬祭用のスーツを持ちだしたんだって。ちなみに牙は、パーティーショップで購入。


「おねえちゃん、タッチ!」


 杏ちゃんの手のひらが、ぺたんとあたしの腕にふれた。


「あ~! 杏ちゃんにつかまった~。次はあたしが鬼だ~っ!!  つかまえちゃうぞ~」


 笑いながら逃げていく、杏ちゃん。

 ほっとしたら、「綾」って、後ろから肩をつかまれた。


「いちおう周囲も警戒しとけよ」

「……うん」

「アグリモニーのビンは?」

「持ってる」





 かれこれ二週間弱。いろいろ考えてみたんだけど、ティル・ナ・ノーグの穴をふさぎ直す、いい方法は見つからなかった。

 それでヨウちゃんが決断したのは、「ハロウィンの夜になって、穴が開くのを見とどけてから、すぐに巻きもどしのほうで閉じる」っていう苦肉の策。


「ティル・ナ・ノーグの穴が開くと言われている時間帯は、夜。周囲が暗くなってからだ。逆に言えば、それまでは、安全なはずだ。子どもたちを無事に児童館まで送りとどけたら、オレはまた、浅山にのぼる」


 そんなわけで、事情を知っているあたしとヨウちゃんと誠は、呪い返しにつかえるアグリモニーのビンを持って、こっそりパトロールしてるんだ。



「あ。はい、ヨウちゃんにタッチ」

「……は?」

「みんな~、次はこのドラキュラのおにいちゃんが鬼だよ~っ! 逃げろ~っ!! 」

「って、綾っ! オレまで巻き込むなっ!! 」


 子どもたちといっしょになって、あたしもキャ~キャ~。

 肩でため息をついたヨウちゃんが、「こら、待て!」と短距離走のフォームで走り出した。


「ぎゃ~っ!!  本気モード禁止っ! ちょっと、怖い、怖いっ!! 」


 あたしたちを見て、バトミントンのラケットを手に、真央ちゃんが「わははは!」って、笑ってる。


「真央ちゃん、かくまってぇ~!」

「逃げんな、綾。はい、タッチ」

「あ~、もう~っ!! 」


「仲良しだねぇ」


 ビニールシートの上で、誠と有香ちゃんが、お茶飲みのおじいさんとおばあさんみたいにほほえんでる。

 頭上で、ゴロゴロと音がした。


「……あれ、雷?」

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